都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

腰痛の慢性化は予測できるか?

本日は、腰痛は3か月以上持続したら、慢性化(慢性腰痛)とみなされます。

慢性疼痛は、疼痛持続に何らかの身体的現象が関与し、通常は心理的因子も関与している。

その慢性化する心理的要因には、恐怖回避行動が挙げられます。

腰が痛くなりそうなことはしないというものです。

すると下図のように負のループにはまってしまいます。

 

「恐怖回避思考」の画像検索結果

われわれ施術家は、この負のループをどこかで断ち切ることを行いますが、その方法は様々です。

ですが、まずは慢性化しないようにする!

これが大切です。

では、どんな人が慢性化しやすいのか?

これのレビューがJAMAからでています。

 

Chou R, et al. Will This Patient Develop Persistent Disabling Low Back Pain? JAMA.2010 Apr 7; 303(13): 1295-1302.

 

腰痛が8週間未満の急性腰痛患者を対象とした報告を集め、2名の評価者が厳選した結果、最終的に20編(n=10842)が残った。

 

まずは、年齢や性別などで慢性化の予測ができるか?

45歳以下性別最終学歴喫煙歴、BMI、休業補償の有無、仕事への不満、肉体労働、からは予測できない。

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その他、

健康状態や活動性などからの予測では、

健康レベルが低い(虚弱)、腰痛の既往は予測に役に立たない。

しかし、精神疾患の既往があれば、1年後も腰痛がある可能性が少し上がる(LR+2.2[1.9-2.3])。

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さらに、

下肢痛や放散痛の有無は予測に役に立たないが、

疼痛レベルが低ければ1年後の腰痛の可能性は下がる(LR-0.33[0.08―0.97])

障害が強いと1年後の可能性が上がり、弱いと可能性が下がる(LR+2.1[1.2-2.7]、LR-0.40[0.10-0.52])

恐怖回避行動や思考が強いと、3か月以上の腰痛の可能性が上がり、弱いと可能性が下がる(LR+2.2[1.5-4.9]、LR-0.46[0.30-0.73])

身体表現性疼痛があると、3か月以降の可能性が上がる(LR+2.5[1.8-3.4])

身体表現性疼痛か全般性疼痛(あっちもこっちも痛い)と1年後も続く可能性が高い(LR+3.0[1.7-4.6])

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つまり、急性腰痛で来られた患者さんに対して、1年以内に治ると伝えるには、「疼痛レベルが低い」・「障害が強くない」・「恐怖回避思考が弱い/ない」ことを確認することが必要。

 

仮に、急性腰痛患者が慢性化する確率(事前確立)を30%として、3つの予測がすべて陰性だった場合の事後確率は、約1.7%になる。

つまり、目の前の患者さんに「あなたの腰痛が1年後も続く可能性は約2%です。」と話せることになります

事前確立や評価で事後確率は変わりますが、目安にはなります。

しかし、1年後の予測は、患者さんにとってそこまで有益になるだろうか?と思います。せめて半年での精度があればいいなーと思います。

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この他にも、

腰痛が非器質的または心理的な要素があるかを評価する「ワデル徴候」があります。

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ワデル徴候は5つの項目を評価する。

1.圧痛~腰部の皮膚を軽くつまんで腰部全体に痛みが出現(superficial)、局在しない広範囲の深部の痛み(nonanatomic)

2.疑似負荷試験~患者は立位で、被験者が患者の頭部を上から下に向かって押すと腰痛が誘発する(axial loading)、患者の肩と骨盤を固定したまま回旋すると腰痛が出現(rotation)

3.気そらし試験座位で下肢の伸展動作を行うと、腰痛陰性(distraction)

4.神経学的所見歯車様固縮を伴う膝崩れ(weakness)、デルマトームに沿わないストッキング型の感覚障害(sensory change)

5.過剰反応~発言や表情、筋緊張などが過剰すぎる(over-reaction)

 

この5項目中3項目が陽性ならば、心理的要因が強いことが報告されているようです。

 

心理的な要因は、なかなか評価が難しい部分があります。

ワデル徴候や恐怖回避思考がないかはチェックしておくといいのかな?と思いますが、鍼灸院に通っていただくのに、どのくらいのペースが適切なのか?何回通えばいいのか?といった情報が提示できれば、患者さんにとっても有益だろうとは思いますが、現時点でのエビデンスはなさそうです。そうなると、施術者と患者さんとで相談して決めていくのが1番ってことになります(基本的なことですが)。