都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

脊椎分離症の病歴と身体所見

先日、当院に10代の頃に腰椎分離症の既往がある患者さんが来られました。

 

そこで脊椎分離症を復習がてら調べてみました。

 

脊椎分離症は、腰椎に多く発生し、頚椎はまれ。

頚椎分離症に頚髄症を併発した症例報告などがあります(整形外科と災害外科.2014;63(2):314-317.)

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(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spondiyolysis.htmlより引用掲載)

 

椎体と椎弓が分離する骨折を起こす。

 

Horn SR, et al. National trends in the prevalence, treatment, and associated spinal diagnoses among pediatric spondylolysis patients. Bull Hosp Jt Dis (2013). 2018 Dec; 76(4): 246-251.

小児脊椎分離症患者における有病率、治療、合併する脊椎疾患の全国的傾向

 

2003年~2012年の間で0~20歳までに脊椎分離症と診断された600人。

発生率:10万人あたり7人

病因:外傷性が8.6%

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このうち1.9%は複数の外傷病因を有する

(本文よりグラフ化して掲載)

 

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L2;2%

L3;3%

L4;5-15%

L5;85-95%

とL5に多い。
 

合併脊椎症:

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脊椎分離症430人が外科手術を受け、そのうち40%にすべり症が合併していた。

 

古田徹.成長期腰椎分離症の診断と治療.日本腰痛会誌.2003;9(1):15-22.

 

脊椎分離症の発生頻度:男性~人口の5-7%、女性~人口の2-4%。

いくつかの報告をみても4-10%の範囲にある。

12歳頃から発生頻度が高くなる

またその原因の1つにスポーツ障害があるが、スポーツしていない人でも一定数は発生する。

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臨床所見:

運動中の瞬間的腰痛~運動時以外は腰痛は特に気にならないことも多い

好発年齢~12-17歳で90%

過度なスポーツ

腰椎伸展時の腰痛

男性に多い

棘突起の圧痛(70%以上)

SLR陽性(20-25%)

 

保存的治療と外科的治療がある。

保存的には体幹ギプス2か月程度、脊椎装具1-3か月が一般的。

発生から4週間は体幹ギプス固定をしても椎弓分離が進行することがある(骨吸収期間に骨癒合はしにくいため)。

こんなのもあるらしい↓

「Man Ther. 2016 Aug;24:7-17」の画像検索結果

「Man Ther. 2016 Aug;24:7-17」の画像検索結果

 

468例の治癒率:

L5の治りは悪い

偽関節形成があると治りが悪い。これは、偽関節を形成し、対側の追及に新たに分離が発生する例が多かった。それは11歳以下で多かった。

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両側分離は、すべり症に移行しやすい。初期は片側分離で済むため、その場合骨癒合率は99%で、早期治療で固定すれば治る。早急な治療が必要。

 

見抜くための病歴と身体所見は?

 

Grodahi LH, et al. Diagnostic utility of patient history and physical examination data to detect spondylolysis and spondlylolisthesis in athletes with low back pain: A systematic review. Man Ther. 2016 Aug;24:7-17.

運動選手の腰痛で脊椎分離症および脊椎すべり症を検出するための病歴および身体所見の診断的有用性:系統的レビュー

 

最終的に厳選された報告は8件で、そのうち2件は低いバイアスリスクがあった。

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病歴:

 20歳以下・突然発症・スポーツ歴・睡眠中の痛み・座位と歩行で悪化は感度が高い

臀部か大腿部後面の痛みのみ特異度が高い(坐骨神経痛は高くない)

尤度比は算出して掲載

病歴 感度% 特異度% LR+ LR-
20歳以下での発症 80.77 43.64 1.43 0.44
男性 73.08 57.4 1.72 0.47
受傷期間が3か月以内 65.38 54.55 1.44 0.63
突然発症 87.5 50.91 1.78 0.25
スポーツをしている 84.62 33.93 1.28 0.45
腰痛 23 76.67 0.99 1
坐骨神経痛 61 26.67 0.83 1.46
坐骨神経痛 67.57      
両側の坐骨神経痛 27.03      
臀部か大腿部後面の痛み 16 96.67 4.8 0.87
身体の低下 63.37      
気分の低下 40.54      
入眠障害 74.77      
症状ない期間がある 8.11      
睡眠中に痛くて目が覚める 81.08      
腰痛で入院して間もない 18.98      
咳で痛む 37.84      
座位で悪化 84.68      
歩行で悪化 80.18      
排尿障害 11.71      
排便障害 12.61      
性機能障害 17.12      
鎮痛薬を使用 62.26      
器質的疾患の存在がある 70.27      

 

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仮に腰痛を訴える人が来られたとして、22歳、女性、体育以外でスポーツはしない、突然発症ではない、となった場合の腰椎分離症の確率は?

事前確立を10%とすると、20歳以下ではない(LR-0.44)、男性ではない(LR-0.47)、突然発症ではない(LR-0.25)、スポーツ歴なし(LR-0.45)

事後確率は限りなく0%となる。

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身体所見

触診にて足首の変形は、脊椎すべり症に対して60-88%の感度、87-100%の特異度であった。

でも、脊椎分離症に対して身体所見で有用なものはない。

 

脊椎すべり症

身体所見 感度% 特異度% LR+ LR-
触診で足首変形 81.3 89.1 7.43 0.21
触診で足首変形 60 87 4.68 0.46
active SLR 64 45 1.16 0.8
PIT 44 45 0.8 1.24
PLE 43 86 3.07 0.66
前屈障害 41 77 1.78 0.76
歩行障害 5 93.33 0.75 1.02
腹壁が弱い 99 40 1.65 0.03
脊柱起立筋の肥大 65 70 2.17 0.5
脊柱起立筋の痙攣 87 13.33 1 0.98
腰椎前弯 58 63 1.58 0.66
腰椎側弯 4 96.67 1.2 0.99
検査ですべり症がある 21 100   0.29
触診で足首変形 88 100   0.12
ハムストリングの痙攣 27 96.67 8.1 0.76
ハムスリングの収縮 1 90 0.1 1.1
Z posture 2 100   0.98
腰椎屈曲 19 3.33 0.2 24.3
腰椎伸展 79 66.67 2.37 0.31
腰椎側屈 46 83.33 2.76 0.65
腰椎回旋 10 96.67 3 0.93
SLR 10 90 1 1
active SLR 87 76.67 3.73 0.17
大腿伸展テスト 14 96.67 4.2 0.89
アキレス腱反射 13 93.33 1.95 0.93
膝蓋腱反射 8 96.67 2.4 0.95
筋力低下 1 96.67 0.3 1.02
感覚障害 2 100   0.98
歩行距離<250m 74 60 1.85 0.43
母趾背屈力の低下 6.31   0.06  
positive SLR 11.71   0.12  
Crossed SLR 0      
大腿伸展テスト 1.8   0.02  
側屈 42.34   0.42  
ハムストリングがきつい 20.72   0.21  
アキレス腱反射 5.41   0.05  
膝蓋腱反射 4.5   0.05  
感覚障害 23.42   0.43  
腰仙部の圧痛 66.67   0.67  
仙腸関節検査陽性 6.31   0.06  

PIT; Prone instability test ↓ 

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passive lumbar extention ↓

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脊椎分離症

身体所見 感度% 特異度% LR+ LR-
OLHET 73 17.2    
OLHET Left 50 32.4 0.74 1.54
OLHET Right 55 45.4 1.01 0.98
OLHET 61.54 0 0.62  
上体そらしテスト 46.15 33.33 0.69 1.62
コインテスト 84.62 16.67 1.02 0.92
打腱器による打診 38.76 50 0.77 1.12
ロッキングテスト 69.23 25 0.92 1.23
仙骨のnutation test 23 58.33 0.55 1.32
フックテスト 46.15 75 1.85 0.72
MCIコントロールテスト 69.23 50 1.38 0.62

 

OLHET;one-legged hyperextention test:片足過伸展テスト

脊椎分離症に対しての感度50-73%、特異度0-87%

 「one-legged hyperextension test」の画像検索結果

 

Prone back extention↓ 骨盤固定なので、たぶん下肢は上げないと思います。

「prone back extension」の画像検索結果

 Prone back extention with fixed pelvis testは、上体そらしのことだと思います。

「上体そらし」の画像検索結果

 

HOOK test  肘の上腕二頭筋腱で使うのは知っていましたが脊椎分離症でも使うらしい。どう使うのかはよく分かりませんでしたが。

「HOOK test」の画像検索結果

 

 

コインテストというものが唯一感度が80%を超えていた。

コインテストってどんなものかが分からないのです。

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病歴がとっても大切になります。

病歴だけで脊椎分離症やすべり症の可能性がかぎりなく判断できるので。

でも、そんなに上手くいかないのが臨床なので、身体所見の練習も必要です。

腰椎分離症が疑われたら、病院受診で検査を勧めるのが良さそうですね。

早期なら治癒率も高いようですので、早めの受診を促すのも大切な役割だと思います。

併せて鍼灸を受けるとどんなメリットがあるのか?などを説明するといいのかと思います。