筋萎縮性側索硬化症について。
本日は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)についてです。
ALSは、たまにドラマなどで出てきますので、医療関係ではない方の認知度も上がってきている疾患です。
私は神経内科の病院に11年ほどいて、担当したALS患者さんは10人ぐらいと、発生頻度は低いので、なかなか鍼灸院に来られることは少ないかもしれません。
そんなALSに対する鍼灸治療の報告がありました。
Cai M, et al. Complementary and alternative medicine for treating amyotrophic lateral sclerosis: A narrative review. Integr Med Res. 2019 Dec; 8(4): 234-9.
ALSは1869年にフランス神経学者シャルコーによって提唱。
ALSは大脳運動皮質・脳幹・脊髄で運動ニューロンの選択的な異常を起こし、運動制限が起こる進行性の神経変性疾患。
(Mayo Clin Proc. 2018 Nov; 93(11): 1617-1628.)
(N Engl J Med. 2017 Jul 13;377(2): 162-172.)
運動制限は、嚥下や会話、呼吸すらも困難な状態にするため、死に至る。
(N Engl J Med. 2017 Jul 13;377(2): 162-172.)
疫学:
罹患率~10万人に5人
年間発生率~10万人あたり1.7人
女性よりも男性に1.5倍高い
ALSの約90%は、散発性ALS(sALS)、10%は家族性ALS。
家族性ALSの66%は9番染色体の異常。
現在のところ、遺伝的要因と環境要因があるが、環境要因の特定はできていない。
喫煙、頭部外傷、電磁波、農薬などが推測されている。
症状:
ALSで対応できる症状
進行性疾患のため、これらの症状が一度に出現するわけではないので、どの症状があるかは個人差があります。
(Mayo Clin Proc. 2018 Nov; 93(11): 1617-1628.)
Mood;気分、Pseudobulbar affect;情動調節障害、 Energy;元気がない、 Congnitive change;認知の変化、 assisted communication;コミュニケーション支援、 swallowing;嚥下、 secretions;発音、 shoulder pain;肩の痛み、 chest ventilation;胸部呼吸、 constipation;便秘、 urinary urgency;切迫性尿失禁、 hand function;手の機能 mobility;可動性 cramps;痙攣
ALSとの鑑別疾患
(Mayo Clin Proc. 2018 Nov; 93(11): 1617-1628.)
延髄~脳幹梗塞、多発性硬化症、腫瘍
頚髄~頚髄症
腰仙部~胸髄症
筋異常を時々、しびれと表現する方がいます。その場合、頸や腰の脊髄障害と間違えないように気を付けないといけません。
薬物治療:
ALSを完治させるものは現在のところない。
リルゾール(抗グルタミン作動薬)~生存期間を2-3か月延長する効果
エダラボン(抗酸化薬)~静注が2017年に承認され、進行を33%遅らせたとされる。副作用として肝臓障害、顔やのどのアレルギーによる腫れ、気分低下、下痢、発熱、嘔吐、めまい、疲労、吐き気などがある
これらは、日本でも使ってる?のか調べてはいません。
補完代替医療(CAM):
ドイツのDGMという協会の調べでは、ALS患者の54%は何らかのCAMを行っているとしているそう。
そのうち、最も多いのが鍼治療、ホメオパシー、自然療法。
これらのCAMがALSに有効かを調べたレビュー
集まった報告
鍼治療関連は8編(7編は動物研究)で鍼通電療法が多い。使用経穴は足三里が多そうです。
いくつかの報告は、ALS動物モデルに対して脊髄や肺に対して鍼通電刺激が有効だったとしている。
足三里に対する鍼は、ミクログリア細胞の減少、TNF-αを介した運動機能の改善、神経細胞の回復、炎症性サイトカインや肺の機能を高める細胞生存関連タンパク(pAKT/pERK)が増加などの報告が動物研究でされている。
1編だけヒトに対する報告では、Saam鍼治療というものが行われているようです。
私はこのsaam鍼治療を知らないのでよくわかりませんが、ALS初期の段階では、呼吸機能の改善があったようです。
なかなか臨床研究を症例数が少なくて、実施には難しいので、症例報告が限界かな?という感じです。