都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

膝の痛みはなぜ起こるの?

本日は、変形性膝関節症の痛みについて。

2日前のブログでは、膝前面部痛と膝蓋下脂肪について書きました。

今回は、膝の痛みの総論的な報告。

 

引用文献は、

石黒直樹、他.変形性膝関節症はなぜ痛いのか?日本ペインクリニック学会誌.2020;27(1):8-14.

 

変形性膝関節症(OA)は、硝子軟骨(関節軟骨)や線維軟骨(半月板や関節唇)の変性、軟骨下骨の硬化、骨棘形成などの骨代謝変化を伴う炎症性疾患であり、加齢を基盤とした複数の要因(遺伝・性・力学的ストレス・脂質代謝異常など)を背景に発症する多因子疾患であると考えられている。

⇒こうしたことを、患者さんには「関節軟骨が剥がれて、むき出しになった骨が壊れて痛い」、「骨の棘ができていて、ぶつかると痛い」というような説明になる。

 

しかし本来、関節軟骨は血管や神経が欠けているため痛みを感じない組織だが、なぜ痛みが出るのか?

OAの痛みは、大きく3パターン

1.侵害受容性疼痛

2.神経障害性疼痛

3.1と2の混合性疼痛

と分けられる。

 

1のパターン;

①骨棘と関節痛は関連するとする報告がある一方で、骨棘形成の程度と膝痛は関連しないとする報告もある。

これらの両者は間違いではなく、骨棘の中の構造が痛みと関連する。

骨棘の中(骨髄腔)の血管新生や神経線維の発達が関節痛と関連すると考えられている。

骨棘が小さくても、血管などが豊富になっていれば痛みはでるということになる。

 

②関節裂隙狭小化と痛みには関連がないとする報告とあるとする報告がある。

関連があると示したものは、骨組織(骨棘や軟骨下骨)や軟部組織(半月板や靭帯、関節包など)の変性や損傷が痛みの原因になり、間接的に関節裂隙狭小化と関連したと考察している。

 

③滑膜炎

OAと滑膜炎の関連を示す報告は多数ある。

関節内に滑膜炎のような炎症が生じると、ケミカルメディエーターや炎症性サイトカインが産生・放出され、侵害受容性疼痛が発生する。

 

④骨髄病変/BML(bone marrow lesion)

関節変形による関節や周囲組織への過剰な力学的負荷、骨髄病変/BMLも侵害受容性疼痛を起こす。

BMLとは、軟骨下骨のリモデリングや微小骨折による骨髄内炎症や浮腫、線維化や骨壊死などを含めた呼称

OAの進行により、下肢のアライメント悪化・軟骨欠損や半月板脱臼などの変化に伴い、軟骨下骨への過重負荷が増大する。するとBMLが増大し、痛みが増悪する。

 

⑤その他

腱靭帯付着部や半月板外縁は知覚神経終末がある。そのため、損傷や牽引により痛みが発生する。

軟骨や半月板内縁は、無神経・無血管だが、OAになると血管新生(肝細胞増殖因子;HGF、血管内皮細胞増殖因子;VEGF など)による神経伸長があり痛みに寄与するとする報告がある。

OA進行により、関節包の線維化や関節周囲の筋拘縮なども痛みの原因となる。

 

2のパターン;

OAの持続症状には神経障害性疼痛が関わることが多い(膝や股関節のOA患者の11-27.7%に認められた)。

 

1パターンの⑤や2パターンのように、慢性的な侵害受容器刺激がきっかけで、刺激の感受性が増加した痛みを、「感作」と呼ぶ。

感作には、末梢性と中枢性があり、

一次ニューロンの変調が、末梢の反応性増強や過敏化を起こすことを、「末梢性」

二次ニューロンの細胞膜上の受容体が反応性を増強させ、弱い刺激でも脊髄や脳で過敏状態を作ることを「中枢性」

となる。

OAでは、両者とも関与する。

 

2017年のIASP(国際疼痛学会)では、あらたに「nociplastic pain」という概念を提唱。

末梢の侵害受容器の活性化を引き起こす組織損傷またはそのおそれ、あるいは痛みを引き起こす体性感覚系の疾患や病変の証拠がないにもかかわらず、痛みの認知の変化(Altered nociception)によって生じる疼痛。とされている。

⇒つまり、ぱっと見た感じは、痛みが出そうな感じはないけど、痛がっているのは脳の痛みを感じる部分の影響もあるということ。

 

鍼灸はこれにも有用かもしれないという報告があり、

Boosted鍼灸(効果の期待値を高める方法での鍼灸)と通常の鍼灸で、膝OA患者の脳機能をfMRIで評価すると、Boosted鍼灸側坐核や内側前頭前皮質などとの安静時機能的結合の増加が認められた(Neuroimage Clin. 2018;18:325-34.)。としている。

Fig. 1

Fig. 2

Fig. 3

 

膝OAの痛みは、単純に「関節軟骨が剥がれて、むき出しになった骨が壊れて痛い」、「骨の棘ができていて、ぶつかると痛い」という病態ではなく、

1骨(骨棘やBML)

2.持続する炎症(滑膜炎)

3.無神経野への神経伸長(軟骨や半月板内縁)

4.中枢性・末梢性感作

5.下行性疼痛抑制系の異常⇒ブログ内では割愛

6.nociplastic pain

という因子が複合的に関与したもの。

鍼灸がOAに有効とすることを説明するには、

これらの要因1つ1つに対して検討していき、何に有効で、何に無効なのか?を調べていかないといけないです。

また、複合的な検討も併せて必要ですが。