腹痛では、アクネス・チャンを忘れない
本日は、腹痛に関する報告です。
Van Assen T, et al. Chronic abdominal wall pain misdaignosed as functional abdominal pain. J Am Board Fam Med. 2013;26:738-744.
オランダで行われた過敏性腸症候群(IBS)を含む機能性腹痛と疑われた18歳以上の535人に質問票に回答してもらい、その中から前皮神経絞扼症候群(ACNES)がいないかを抽出できるか検討した。
質問票は以下のようになっており、計18項目で構成。
10点を超えた患者では、より詳細に診察が行われた結果、18人が10点を超え、そのうちの6人がACNESと診断された。
10点をカットオフ値とした場合、感度94%・特異度92%と高い精度であった。
つまり、10点以下であれば機能性腹痛の可能性94%、10点以上であれば92%の可能性でACNESということになる。
これより、機能性腹痛の中の3.6(1.7-7.6)%でACNESが混ざっている可能性が示唆された。
という内容でした。
今回の報告では、この質問票事態の精度はそんなに注目しなくても、
前皮神経絞扼症候群:ACNESはお腹が痛いといってきた患者さんの中に紛れている可能性がある。これは鍼灸院にも来る可能性が十分にあると思います。
例えば、過敏性腸症候群だと診断され、長年苦しんでいた患者さんが、実はIBSではなくて、ACNESだったなんてパターンです。
同じ著者が、別の論文で
Incidence of abdominal pain due to the anterior cutaneous nerve entrapment syndrome in an emergency department. Scand J Trauma Resusc Emerg Med.2015;23:19.
で報告しており、
ACNESは、腹壁の感覚を支配する前皮神経が、絞扼されることで、腹壁の感覚異常や腹痛、ときに食欲低下、排便パターンの変化、体重減少、吐き気などを呈することがある疾患。
ACNESの圧痛部位は以下のように、腹直筋の外縁に起こることが多い。
先ほどは質問票を用いていましたが、身体所見として、Carnett徴候が有用。
腹筋を収縮させ、痛みが増強すればACNESの可能性が上がる(ACNESの80-100%の範囲で陽性となる)。
増強しなければ、機能性腹痛の可能性が上がる。
ただし、筋性防御などの腹膜炎が示唆される場合も、陽性となることがあるので、注意。
カーネット徴候以外にも、触診などで判断する。
圧痛点に部位を確認し、その範囲を調べる(下写真A)。その範囲が2センチ以下であること。
触覚や温度覚が低下していないか(下写真BとC)
皮膚をつまむと疼痛が増強するか?(下写真D)増強するとACNESの可能性が上がる。
ACNES患者の特徴をまとめた表
年齢:37(12-76)歳
男女比17:71で女性に多い。
痛みの部位をみてみると、
右上腹部:14.8%
左上腹部:5.7%
右下腹部:59.1%
左下腹部:19.3%
下腹部全体:1.1%
と右下腹部に最も多い。
トリガーポイントは100%あり、カーネット徴候の陽性92.9%、
感覚障害87.0%、ピンチ刺激で疼痛増強88.1%と高い精度であった。
治療には、リドカイン注射を行うことが多い。
鍼治療による報告例は見つけられませんでしたが、以前私が経験した症例では、鍼治療直後から症状が和らいだのを経験しています。
IBSなどと思われる症例でも、カーネット徴候などの身体所見を行い、ACNESを否定することが大切です。
これは、アグネス・チャンさんですが、
腹痛のときには、アクネス(ACNES)・チャン(若年女性に多い)を忘れないようにしたいものです。