湿布や塗り薬の痛みを止める効果はどのくらい?
本日は、湿布薬と塗り薬の効果について調べてみました。
ときどき、鍼灸師の中には、湿布なんか効かないからやっても無駄というようなことを言ってる人がいると聞きます。
はたして本当にそうなのか?
効くのか?効かないのか?きちんと調べてみようと思いました。
ちなみに本文中は一般名で記載しており、商品名は調べていないので、もしかしたら日本では扱いがないものも含まれているかもしれませんので、注意してください。
まずは、塗り薬。
Derry S, et al. Topical analgesics for acute and chronic pain in adults - an overview of Cochrane Reviews. Cochrane Database Syst Rev. 2017 May 12;5:CD008609. doi: 10.1002/14651858.CD008609.pub2
成人の急性および慢性疼痛の治療において皮膚に塗布する局所鎮痛剤(主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、サリチル酸系発赤剤、カプサイシン、リドカイン)の鎮痛効果、および関連する有害事象についてレビュー。
方法:
コクラン・ライブラリで、急性および慢性疼痛に関するシステマティックレビューから、13編(約30,700名を対象とした206件の研究)が厳選。
急性および慢性疼痛における塗布型局所鎮痛剤の有効性と有害性
1次エンドポイントを50%以上の鎮痛
その結果、
エビデンスの質:中等度または高い
比較対照:ほとんどがプラセボとの比較で、経口鎮痛薬との比較は少ない。
急性の筋骨格痛(筋肉痛や捻挫)における約7日時点での評価;
ジクロフェナク・エマルジェル(ボルタレン・エマルジェル®):エマルジェル群78%、プラセボ群20%、2件の研究、314名、NNT 1.8[95% 信頼区間 1.5 ~ 2.1]。
ケトプロフェンジェル:ケトプロフェン群72%、プラセボ群33%、5件の研究、348名、NNT 2.5[2.0 ~ 3.4]。
ピロキシカムジェル:ピロキシカム群70%、プラセボ群47%、3件の研究、522名、NNT 4.4[3.2 ~ 6.9]。
ジクロフェナク・フレクター湿布:フレクター群63%、プラセボ群41%、4件の研究、1030名、NNT 4.7[3.7 ~ 6.5]。
他のジクロフェナク湿布:ジクロフェナク湿布群88%、プラセボ群57%、3件の研究、474名、NNT 3.2[2.6 ~ 4.2]。
NNT:number need treatmentの略で、1人を治すのに何人治療する必要があるのか?の指標になります。数字が低いほど効果があるとみます。
つまり、これらの塗り薬は、筋肉痛・筋挫傷・捻挫の痛みを持つ患者2~5例中1例の痛みが1週間で少なくとも半減する。
慢性の筋骨格痛(主に手や膝の変形性関節症)
6週未満の局所ジクロフェナク製剤:ジクロフェナク群43%、プラセボ群23%、5件の研究、732名、NNT 5.0[3.7 ~ 7.4]。
6~12週以上のケトプロフェン:ケトプロフェン群63%、プラセボ群48%、4件の研究、2573名、NNT 6.9[5.4 ~ 9.3]。
6~12週以上の局所ジクロフェナク製剤:ジクロフェナク群60%、プラセボ群50%、4件の研究、2343名、NNT 9.8[7.1 ~ 16]。
帯状疱疹後神経痛では、高濃度局所カプサイシンによるわずかな有効性について、中等度の質のエビデンスがあった(カプサイシン群33%、プラセボ群24%、2件の研究、571名、NNT 11[6.1 ~ 62])。
変形性関節症の疼痛に対し、NSAID鎮痛薬の局所ジクロフェナクや局所ケトプロフェンを最低6~12週間皮膚に塗ると、5~10例中1例の痛みが少なくとも半減。
帯状疱疹後神経痛では、局所高濃度カプサイシンの単回塗布により、12例中1例の痛みが8~12週にわたり少なくとも半減。
他の治療の有効性に関するエビデンスの質は低い、または極めて低い。
以下の局所製剤では、有効性に関するエビデンスが限定的で、出版バイアスの可能性があった。
急性疼痛に対するイブプロフェンジェルとクリーム、不特定のジクロフェナク製剤およびエマルジェル以外のジクロフェナクジェル、インドメタシン、ケトプロフェン湿布、および慢性疼痛に対するサリチル酸系発赤剤。
他の介入(急性疼痛に対する他の局所NSAIDs、局所サリチル酸製剤、神経障害性疼痛に対する低濃度カプサイシン、リドカイン、クロニジン、あらゆる疼痛に対する薬草療法)に関するエビデンスの質は極めて低く、概して単一研究や疎データとの比較に限られた。
急性疼痛における全身性または局所性有害事象の発生率は、局所NSAIDs群(4.3%)と局所プラセボ群(4.6%)で同程度だった(42件の研究、6740名、エビデンスの質は高い)。
慢性疼痛における局所性有害事象の発生率は、低濃度局所カプサイシン群(63%)で局所プラセボ群(24%)よりも高かった(5件の研究、557名、有害性に関する治療必要数(NNH)2.6、エビデンスの質は高い)。
中等度の質のエビデンスにより、慢性疼痛に対する局所ジクロフェナク(NNH 16)、および局所疼痛に対する局所高濃度カプサイシン(NNH 16)では、プラセボよりも局所性有害事象が多いことが示唆された。
中等度の質のエビデンスにより、慢性疼痛における局所性有害事象は、局所ケトプロフェンと局所プラセボで同程度であることが示された。
重篤な有害事象はまれであった(エビデンスの質は極めて低い)。
局所低濃度カプサイシン以外は、プラセボとそんなに変わらない副作用だった。
一般的に医療統計の分野でNNT:100が基準とされています。
なので、今回の塗り薬の鎮痛効果は、短期的ではありますが、疼痛を半減する効果は高いと思います。
つまり、急性疼痛ならば1週間を超えての効果は不明。慢性疼痛ならば12週を超えての効果は不明ということで、漫然と使うことは控えた方がいいかもしれません。もしかした、副作用の方が勝ってくる可能性もあります。
続いて、湿布薬についてです。
Moore RA, et al. Quantitative systematic review of topically applied non-steroidal anti-inflammatory drugs.BMJ. 1998 Jan 31;316(7128):333-8.
最近のものが見つけられなかったです。
集まった報告:RCTのレビュー、86編(n=10160)
急性疼痛1週間と慢性疼痛2週間におけるプラセボとの比較。
エンドポイント:疼痛50%軽減
その結果、
急性疼痛(捻挫や外傷など)に対して、プラセボ39%・介入群71%
有益性:1.7[1.5-1.9]
局所の副作用:プラセボ群3.0%、介入群2.6%と有意差なし
全身的な副作用:プラセボ群0.7%、介入群0.8%と有意差なし
NNT:3.9[3.4-4.4]
ケトプロフェン(NNT:2.6)、フェルビナク(NNT3.0)、イブプロフェン(NNT3.5)、およびピロキシカム(NNT4.2)と有意な改善だったが、ベンジダミンとインドメタシンはプラセボと有意差なし。
ケトプロフェン(モーラス®)が一番効果は高そう。
変形性関節症や腱炎などの慢性疼痛に対して、プラセボ30%vs介入群65%
有益性:2.0[1.5-2.7]
局所の副作用:プラセボ群5.3%、介入群5.9%と有意差なし
全身的な副作用:プラセボ群1.3%、介入群1.1%と有意差なし
NNT: 3.1[2.7-3.8]
とNNTは低い(有効性がある)。
急性疼痛も慢性疼痛も小規模のRCTが入っているようで、その結果がどのくらい影響するかは不明です。
でも、塗り薬同様、短期的には効果がありそう。
モーラス®などは、光線過敏症を起こしやすいこと(https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/276-1.pdf)、NSAIDsの湿布は胃潰瘍を起こすことがあるという報告もあります(日本プライマリ・ケア連合学会誌 2019, vol. 42, no. 3, p. 158-161)。
使用するには、注意が必要なことも併せて知っておくといいかもしれません。
正直、1週間~2週間で慢性疼痛が半減する印象はありませんが、含有量などは日本と海外は一緒なのでしょうか?
また、有意差は2群間ではありませんでしたが、使用期間が1週間の違いで副作用の発生率が増加しているのは少し気になります。
やはり、塗り薬や湿布は、短期的に使うことで副作用のリスクを減らし、その効果を発揮させる使い方がいいのだと思います。