都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

耳鳴りと鍼

本日は、耳鳴りに対する鍼の有用性について。

 

Kuzucu I, et al. Acupuncture treatment in patients with chronic subjective tinnitus: A prospective, randomized study. Med Acupunct. 2020 Feb 1;32(1):24-28.

慢性耳鳴り患者の鍼治療:前向き無作為化比較試験

 

耳鳴りの発生頻度は約1%で、そのうち5-15%は治療抵抗性の持続性耳鳴りとされる。

耳鳴り患者の1-3%には、精神的ストレス、睡眠障害、仕事などへの影響がある。

耳鳴りのメカニズムは完全にはわかってはいないが、外的刺激なしの耳鳴は、蝸牛~聴覚野までの経路に異常があるとされる。

 

重度の慢性耳鳴り患者の鍼が有効かを追跡調査して行った。

 対象の選抜基準;

1.男女、18-60歳

2.片側または両側の主観的耳鳴り

3.1年以上の重度の耳鳴の病歴

4.耳鳴りハンディキャップインベントリ(THI)アンケートで重度(38点以上)

5.耳鼻咽喉科検査で耳鳴りの原因が不明

6.過去6か月以内に治療は受けていない

 

除外基準;

1.3ヶ月以内に鍼治療を受けた

2.心臓病による投薬や手術の既往

3.耳鳴りの原因疾患がある(メニエール症候群、中耳炎、など)

4.金属アレルギーまたは鍼恐怖症、および向精神薬の使用

5.妊娠または授乳期

6.THI未完了者

 

179名が集まり、最終的に105名が対象となった。

 

対象者背景;

Table 1.

Pretreatment Characteristics of the Participants

Characteristics Verum
Sham
 
acupuncture group
acupuncture group
 
(n = 53) (n = 52) P
Age (yrs ± SD) 50.70 ± 9.96 47.63 ± 11.35 0.144
Gender, (n %)      
 Female 34 (%64) 35 (%67) 0.289
 Male 19 (%36) 17 (%33)
Hearing, (n %)      
 Bilateral loss 43 (%81) 44 (%84)  
 No loss 10 (%19) 8 (%16)  
Hearing loss grade, (n %)      
 Normal with decrease 15 (%28) 16 (%31)  
 Mild 12 (%23) 12 (%23)  
 Moderate 13 (%25) 14 (%27)  
 Severe 3 (%1) 2 (%1)  

鍼の方法;

11経穴:患側のTE21、SI19、GB2、TE22、ST7、TE17、GB20、TE5、KI3、健側GB20

5-10mmの深さで、特気が得られたのち、20分置鍼。

週2回、5週間、計10回行った。

 

偽鍼の方法;

皮膚刺激はなし。

 

評価;

VAS、THI、聴力検査

 

その結果、

VAS

画像、イラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名はacu.2019.1367_figure1.jpgです

表2。

治療評価セッション中のTHIおよびVASスコアのグループ間およびグループ内比較

 
Verum鍼治療グループ
偽鍼治療グループ
 
 
(n:53)
(n:52)
時間 THI
VAS
THI
VAS
** ***
(平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差
T1 61.11±12.70 7.26±0.98 59.25±13.10 6.98±1.12 0.461 0.174
T2 47.92±13.65 4.92±1.17 52.38±14.19 6.02±1.83 0.104 <0.001
T3 35.92±15.27 2.41±1.09 56.52±12.08 6.27±1.56 <0.001 <0.001
T4 33.85±14.93 2.20±1.09 56.37±12.20 6.39±1.43 <0.001 <0.001
T5 32.30±15.40 2.16±1.12 57.87±13.12 6.19±1.57 <0.001 <0.001
T6 30.83±15.90 2.06±1.09 59.01±13.35 6.75±1.19 <0.001 <0.001
T7 40.26±16.56 3.66±1.38 60.71±13.90 6.84±1.18 <0.001 <0.001
* <0.001 <0.001 0.090 0.078    

時間: T1、治療前; T2、治療1週目; T3、治療2週目; T4、治療3週目; T5、治療4週目; T6、治療5週目; T7、治療後3か月目。

*、反復測定の分散分析。**、Mann–Whitney- U検定(THI); ***、Mann–Whitney- U検定(VAS)。重要な結果は太字で示されています。

THI、耳鳴りハンディキャップインベントリ; VAS、視覚的アナログスケール; SD、標準偏差

 

THI

画像、イラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名はacu.2019.1367_figure2.jpgです。

 

 

聴力検査スコアのグループ間およびグループ内比較:2群間で有意差なし。

 
Verum鍼治療グループ
偽鍼治療グループ
 
 
(n = 53)
(n = 52)
  PTA
音声
PTA
音声
** ***
(平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差 (平均値±標準偏差
T1 31.47±20.53 80.86±15.52 30.25±21.72 81.11±15.60 0.768 0.935
T7 31.03±19.99 81.47±15.66 30.03±21.15 79.54±14.94 0.805 0.519
* 0.159 0.176 0.129 0.615    

時間: T1、治療前。T7、治療後3か月目。

*、反復測定の分散分析。**、Mann–Whitney- Uテスト(PTA)。***、Mann–Whitney- U検定(音声弁別)。

PTA、Pure Tone Audiometry(Interacoustics AC-40、デンマーク); SD、標準偏差

 

鍼治療を受けたグループは、偽鍼グループに比べ、VASとTHIは有意な改善を示したが、フォロー期間に再び悪化する傾向にあった。

また聴力検査では有意差がなかった。

 

この著者は、聴力検査で2群間の有意差がでなかったことについての理由は触れていません。

むしろ、VASとTHIが耳鳴りの評価で重要としています。

 

読んだ感想;

耳鼻科疾患に伴う耳鳴りは除外され、重症の耳鳴であっても、改善する可能性が示唆されますが、もう少し詳細な検討は必要です。

また、今回は偽鍼との比較でしたが、偽鍼の方法をもう少し詳細に書いていただき、被験者が偽鍼と気付いていたか?どうかを確認することも大切です。

それによりVASなどの評価の信頼性があがると思われます。