鍼灸での血流増加
本日は、基礎研究から、鍼灸の末梢循環への機序について。
木村研一.鍼灸治療が末梢循環に及ぼす影響とその作用機序について:基礎研究からの考察.自律神経.2019;56(3):146-9.
鍼灸治療は、局所の末梢循環の改善で、それに起因する疾患や症状に効果があると考えられる。
その機序として、
まずは軸索反射について。
鍼や灸を行うと、局所のフレア(発赤)が起こる。
これは軸索反射により起こるが、この際にさサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などが局所の血管拡張に関与する。
この反応は、麻酔下ラットにおいて筋血流増加がCGRP受容体遮断薬によって消失した(Neurosci Lett.2000;283:137-140.)とする報告などから示唆されている。
この軸索反射における局所の血流増加反応に、CGRPやサブスタンスPが関与することが示されているが、それ以外にも、一酸化窒素などの関与も報告されている。
鍼通電療法の通電中は筋組織の酸素ヘモグロビン濃度が二相性の反応を示すことが報告。
こうした筋血流の増加には、一酸化窒素(NO)が関与する。
NOを合成する1つの血管内皮細胞は、鍼通電療法後のNO合成酵素阻害薬であるL-NAME投与で抑制されたとする報告がある(Acupunct Med. 2015 Feb;33(1):65-71.)。
この他、電子温灸による皮膚血流反応へのNOやプロスタグランジンの関与を検討すると、加温による皮膚血流の増加反応は、L-NAME投与で抑制されたが、COX阻害剤(プロスタグランジン阻害)では変化なしであった。
電子温灸による皮膚血流増加にはNOが大きく関与する。
同様の反応は、鍼刺激でも認められた。
この他にも、近年ではアデノシンの関与が示されつつある。
アデノシン受容体遮断薬の投与によって鍼刺激による筋血流増加反応が抑制されたとする報告( Acupunct Med 2017;35: 284-288)もある。
このように、血流増加反応には、CGRP、サブスンスP、NO、アデノシンといった関与が現時点では示唆されている。
これらの血管拡張作用に関連する神経として、自律神経があるが、
これまで筋血流増加には筋交感神経活動の抑制により血管拡張反応が起こると考えられていた。しかし、健常若年者に鍼刺激を行い筋交感神経活動を測定しても抑制されないことから、関与は少ないのではないかとされている(Auton Neurosci: Basic and Clinical 2017; 208: 131-136.) 。
筋交感神経活動ではなく、腎交感神経活動や心臓交感神経活動の方が関与は大きいと示唆されている。
また先ほどの報告は健常者であり、心不全や多嚢胞性卵巣症候群の患者では筋交感神経活動が亢進した状態にあり、そうした場合には、抑制効果が表れるとすることが示唆されている。
ここらへんは、さらに検討課題になっている部分。