都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

動悸について

今回は、動悸

 

動悸について.心身医.2018;58(8):740-6.より

 

動悸とは、「心臓の鼓動を自覚する症状」と定義され、プライマリ・ケアの現場の16%を占める主訴である。

その病態生理についてはあまり明らかにされてはいないが、感覚受容器(心筋や心膜)と自律神経系の関与、視床扁桃体前頭葉底部が関わるとされている。

動悸は、不整脈を伴う場合と伴わない場合がある。

 

鑑別には、

190人の患者を調べた結果、84%が原因が特定され、うち43%が心疾患、31%が精神疾患、10%が薬剤性や全身疾患によるものであった。

本文の元データから作成して掲載

元データ:Am J Med.1996 Feb;100(2):138-48.

 

これより、鍼灸院に主訴が動悸の患者さんが来られたら、

・心疾患

精神疾患

・全身性疾患(薬剤性含む)

の3つに分けて考える。

 

不整脈

器質的心疾患の有無に関わらず起こる。徐脈性不整脈は動悸として自覚しにくい。ペースメーカーや植え込み式除細動器の不具合も含まれる。

 

器質的心疾患

僧帽弁逸脱症、僧帽弁や大動脈弁からの逆流、シャントを伴う先天性、肥大型心筋症、人工弁などは不整脈はなくとも、動悸を感じることがある。

 

僧帽弁逸脱症~僧帽弁の一部が、収縮期に左房側に逸脱する疾患。鋭く弾けるような短い収縮中期クリックと呼ばれる心音が聴取される。

肥大型心筋症~高血圧などの心肥大を起こす原因が明らかではなく、心肥大が起こる疾患。症状が進行すると心拍出力低下に伴う失神などが起こる。

 

全身性疾患

洞性頻脈や心収縮力の増加を起こす全身性疾患(発熱、貧血、起立性低血圧、甲状腺機能亢進症、更年期障害、妊娠、低血糖、血液量減少、褐色細胞腫など)は動悸を起こしうる。

 

洞性頻脈~頻脈性不整脈の中で、規則的で速い脈となるもの。

褐色細胞腫~頭痛・動悸・高血圧・糖尿病などを起こす。副腎髄質のカテコールアミンが関与。

 

薬剤性

洞性頻脈を起こしうる薬剤~交感神経作動薬、抗コリン薬、血管拡張薬など

違法薬物~コカイン、ヘロインなど

抗うつ薬抗精神病薬~QT延長症候群といった不整脈による動悸を起こすことがある。

 

QT延長症候群~心筋細胞の電気的な回復が延長し、心電図上のQT時間が延長する疾患。致死的な不整脈を起こすことがある。

 

精神疾患

パニック発作や不安などを起こす、不安症・身体症状症・うつ病など

不安症の中のパニック症の頻度が高く、15-31%とされている。

パニック症は、「突発的な動機(10分以内にピーク、数分から数十分程度で治まる)や胸部不快感、窒息感、死ぬことに対する恐怖感などを伴う不安発作(パニック発作)を基本症状とする。

類似する病気として、発作性上室性頻拍(PSVT)がある。これも突然発症し、病院受診時には症状が消失していることが多い。また心電図でも確認しにくい。PSVTとの鑑別には、バルサルバ法にて症状が消失すれば、PSVT。消失しなければパニック症の可能性が上がる。

またパニック症は、将来的な心疾患のリスクとなることも報告されている。

パニック症は、心疾患と併発することもある。

 

発作性上室性頻拍(PSVT)~心臓を収縮させるための電気刺激は洞結節で発生し、房室結節を通り、心室全体に伝わる。房室結節以遠に何らかの理由で異常な回路ができることで、頻脈を生じる疾患。異常な回路が出来る部位で、名前が変わる。房室結節に回路があれば、房室結節回帰性頻拍、心房と心室を結ぶ副伝導路の異常な回路があれば房室回帰性頻拍と呼ばれる。

 

バルサルバ法とは、息こらえ法とも呼ぶ。胸腔内圧の上昇を介して、迷走神経を刺激し、心拍数を減少させる手技のこと。以前は、頸動脈マッサージなども頻繁に行われていたが、脳梗塞のリスクがあることから、実施には注意が必要で、昔ほど行われていない。

 

鑑別診断

病歴と身体所見~発症時の状況、誘発因子(労作で出現など)、随伴症状(出血やめまいなど)が一助となる。服薬歴も聞くこと。

心電図

 

鍼灸院に動悸の患者さんが来られた際は、心疾患の既往歴なども聞き、出来るだけ心疾患の否定をしておく必要がある(病院で不整脈との診断がある場合は、鍼灸治療の適応になるものもある)。

パニック症のように精神疾患は、心疾患と混在して起こることがあるため、患者さんには不安をあおらないように説明をすることが大切だろう。