都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

骨折の身体所見

Use of the patella-pubic percussion test in the diagnosis and manegement of a patient with a non-displaced hip fracture.

J Man Manip Ther.2007;15(4):E78-84.より

大腿骨骨折に恥骨-膝蓋骨聴性打診は診断やマネージメントに使える

 

この報告は、症例報告である。

症例:68歳、女性。

主訴:転倒後の歩行困難

既往歴:腰部脊柱管狭窄症(術後)、胆のう摘出術、子宮・乳腺摘出術、高血圧

現病歴:8日前に道で転倒。右腰を打ったとのことで病院に行き、レントゲンとCT撮影を行い、股関節の骨折は陰性であった

痛みのために、理学療法を実施。

理学療法士が初診時の検査を実施した。

所見:鼠径部・股関節・太もも・臀部に痛み、後外側大腿部~右下腿外側に異常感覚、

内転時痛+、外転・伸展・屈曲は疼痛-。

「足が関節に詰まっている気がする」と言われる。

痛みは、1日中同じ強さで、安静時・夜間時も痛む(VAS:8点)

臥位で膝関節屈曲姿勢(クッション使用)で軽度の寛解、座位よりも立位で悪化。

最近の変化として、体重変化、発熱、膀胱直腸障害、寝汗、悪心、易疲労性などは否定。

 

そこで、理学療法士が恥骨-膝蓋骨聴性打診(PPPT)を実施したところ、陽性所見であったため、再度レントゲンを撮影依頼。

その結果、股関節の骨折が見つかった。

PPPTの風景

恥骨結合に聴診器を当て、左右の膝蓋骨を叩く。骨折がある方は、音が減弱ないしは消失するため、左右差の確認が必要。

これより、股関節骨折にPPPTは有用なテストであるとされた。

 

そこでシステマチックレビューの紹介

A systematic review of the diagnostic performance of orthopedic physical examination test of the hip.

BMC Musculoskeletal Disorders.2013 Aug 30;14:257. Doi:10.1186/1471-2474-14-257.より

 

最終的に16編の報告が厳選され、56種類のテストの有用性が解析された。

その結果、非常に有用性の高いテストは2種類であった。

中等度の有用性のあるテストは以下の内容であった。

 

これらの表から、いくつかピックアップして見やすくしたのが、次の表

外傷性圧迫骨折と記載してあるが、これは間違い。正しくは外傷性骨折です。

 

恥骨-膝蓋骨聴性打診の報告は2編あり、どちらも診断特性として有用であることが分かる。

最初の症例報告では、レントゲンで最初分からなかった骨折が音の減弱ないしは消失で判断できるのだから、

身体所見は非常に面白い。

 

このような報告はいくつかあり、

Use of percussion as a screening tool in the diagnosis of occult hip fractures. Singapore Med J.2002 Sep;43(9):467-9.

では、救急医療でもPPPTは潜在性股関節骨折を見つけるのに有用であることを報告している[感度96(87-99)%、特異度86(49-98)%、LR+6.857、LR-0.047](本文ではLR+6.73、LR-0.75となっているが、計算しなおしたら、こうなった)。

 

しかし、そうなるとレントゲンの骨折に対する診断特性は調べていないが、どのくらいなのだろうか?

そのうち調べてみたい。

またPPPTは、大腿骨骨折のみではなく、骨盤骨折に対しても有用性がありそうだとする症例報告もある(Is the pattellar pubic percussion test useful to diagnose only femur fractures or something else? Two case reports. Manual Therapy.2016 Feb 1;21:292-6.)。

 

最後に、骨折つながりで、脊椎圧迫骨折に対する身体所見を少しだけ載せておく。

Vertebral compression fractures--new clinical signs to aid diagnosis.

Ann R Coll Surg Engl.2010 Mar;92(2):163-6.

 

83人の骨折患者(平均年齢78.4歳、女性75人)を対象に、脊椎叩打痛と仰臥位テストに診断特性を検討した。

急性と慢性の圧迫骨折は違いがレントゲンでは分からず、MRIを撮影するしかない。

そこで、急性の圧迫骨折に身体所見が使えるかを検討した。

その結果、

となり、この2×2表から、感度と特異度を計算した結果(LRは本文に無かったので、計算して掲載)

脊椎叩打痛~感度87.5%特異度90%LR+8.75LR-0.139

仰臥位テスト~感度81.25%特異度93.33%LR+12.18LR-0.201

となり、どちらも有用な方法であるとされた。

 

今回は、骨折に関する身体所見を取り上げた。

鍼灸院に骨折の患者さんが来る頻度は低いかもしれない。

しかし、在宅などで転倒した患者さんは診ることがあるだろう。

そんなときにはきちんと所見をとる必要がある。