肩の身体所見の精度
本日は、肩の痛みについてです。
Evaluation of shoulder pain. J Fam Pract. 2002 Jul; 51(7): 605-11.
肩関節痛の頻度
回旋腱板の損傷: 48-72%
癒着性関節包炎: 16-22%
急性滑液包炎: 17%
石灰化性腱炎: 6%
筋筋膜性疼痛症候群: 5%
変形性関節症: 2.5%
胸郭出口症候群: 2%
上腕二頭筋腱炎: 0.8%
と回旋腱板の痛みが頻度が多い。
別の報告でも33~81%となっています(JAMA..2013 Aug 28;310(8):837-847)。
回旋腱板に対する身体所見:
Does this patients with shoulder pain have rotator cuff disease?: The rational clinical examination systematic review.JAMA.2013 Aug 28;310(8):837-847. Rational clinical examinationより
最終的に5編の報告が残った。
回旋腱板損傷に対する身体所見:
身体所見の診断精度:
身体所見として有用なのは、
①Painful arc sign:感度71[60-83]、特異度81[68-93]、LR+3.7[1.9-7.0]、LR-0.36[0.23-0.54]
②Exterminal rotation lag:感度47[21-71]、特異度94[85-100]、LR+7.2[1.7-31]、LR-0.57[0.35-0.92]
③Internal rotation lag:感度97[88-100]、特異度83[70-96]、LR+5.6[2.6-12]、LR-0.04[0.0-0.58]
④Drop arm:感度24[13-34]、特異度93[85-100]、LR+3.3[1.0-11]、LR-0.82[0.7-0.97]
⑤Dropping sign:感度73[51-95]、特異度77[62-92]、LR+3.2[1.6-6.5]、LR-0.35[0.15-0.83]
その他、確率を下げるものとして、
Full can:感度75(64-85)%、LR-0.37(0.23-0.60)
Howkins and Neer::感度78(66-90)%、LR-0.43(0.20-0.96)
肩関節痛の病歴と身体所見の診断特性(J Fam Pract. 2002 Jul; 51(7): 605-11)
Empty-canテスト:LR-0.22-0.28と陰性ならば可能性が下がる。
Howkin'sテスト:LR+2.2、LR-0.18となっているが、他の報告ではそこまで良くない。
Gismervik S, et al. Physical examination tests of the shoulder:a systematic review and meta-analysis of diagnostic test performance. BMC Musculoske Dis. 2017;18:41.
肩の身体所見(PETS)は、いくつもあるが、それらの精度は疑問が残る。
なのでメタ解析した。
6000件を超える抄録と202件の報告を集め、最終的に20件が厳選された。
バイアスリスク:
結果:
SLAP損傷(superior labrum anterior and posterior;上方肩関節唇損傷)
に対する身体所見の診断オッズ比(DOR):1.38[1.13-1.69]
各身体所見の精度
SLAP損傷に対する感度が最も高いのはAnterior apprehensionの74[61-84]%、でもLR-0.58なので、可能性はそんなに下がらない。
特異度はヤーガソンテスト92[81-97]%、LR+2.5と少し可能性が上がる程度。
compression-rotationテストはLR+3.91
肩峰下インピンジメント症候群に対して、ホーキンステスト(感度58[50-66]%、特異度67[47-83]%、LR+1.76、LR-0.63)で単独ではイマイチ。
回旋腱板断裂に対する身体所見では、棘上筋試験が最も良かった(感度74[39-92]%、特異度77[69-83]%、LR+2.0、LR-0.57)
Anterior apprehension
compression-rotationテスト
単一の身体所見では、それぞれの肩病変を検出するには弱いが、複数を組み合わせることで検出能力は上がる。
Ackmann T, et al. Comparison of efficacy of supraspinatus tendon tears diagnostic tests: a prospective study on the "full-can," the "empty-can," and the "whipple" tests. Musculoskelet Surg. 2019 Nov 5.
棘上筋腱断裂に対するホイップルテスト、empty-canテスト、Full-canテストの精度
61人の患者に3つのテストを行い、棘上筋腱病変との関連を調査。
その結果、
ホイップル試験は、完全断裂・部分断裂の棘上筋腱病変に対して、
感度88.6%、特異度29.4%
empty-canテストの感度88.6%、特異度58.8%
full-canテストの感度75.0%
だった。
ホイップルテスト
full-canテスト
と報告で、精度が若干変わるのは、対象の違いなどからくるものですが、
大まかな流れは、
となりそうです(事後確率は上記の報告のいずれかに変更してもいいと思います)。
また、ローテーターカフの疑いがあれば、下記のような流れ。
棘上筋の筋力低下?
肩関節の外転の低下?
インピンジメント?
もしくはDrop-armテスト陽性(上記3つ陽性に相当):98%の確率でローテーターカフ障害
これらに年齢を加えて考えると、回旋腱板の損傷の事後確率が変わってくる。
肩の身体所見で何を用いて、その結果でどう変わってくるのか?をあらかじめ考えておく。そして身体所見を行う順番を決めておくと、日常臨床でスムーズに対応できると思います。
練習も必要ですけど。