顔面神経麻痺と電気刺激
顔面神経麻痺に電気刺激はしてはいけない。
そんな意見があります。
そうした意見の根拠となっている報告(原著ではありません)を本日は扱います。
本当にいけないのか?
なぜ、いけないのか?
をしっかりと考えないといけません。
柏森良二.顔面神経麻痺の電気診断学とリハビリテーション.リハビリテーション医学.2001;38:131-139.
顔面神経の回復パターン
1)脱神経のないグループ~脱髄病変によるもの、2週間以内に回復
2)完全脱神経グループ~顔面神経刺激で顔面筋が働かない、病的共同運動がでやすい
3)不完全脱神経グループ~4か月目以降に回復がでてきて、1年後には回復
の3つに分けられる(40点法でも類似した結果になりやすい)。
軸索再生過程では、顔面神経核の興奮性が亢進する。この時期は筋力低下が生じやすい。
脱神経のないグループは、いかなる手段を用いても回復する。
しかし2)と3)は病的共同運動が残る。
下図のR1とは、電気生理学検査で抽出される成分で、麻痺の程度と相関する。回復していけば、振幅が大きくなる。
病的共同運動
軸索変性により迷入再生が生じ、顔面麻痺筋に過誤支配が成立。病的共同運動は、迷入再生による顔面筋過誤支配。
強い閉眼⇒麻痺側の鼻唇溝が深くなる
口笛⇒口唇が麻痺側偏移、眼裂狭小、一見眼瞼下垂にもみえる(口笛眼瞼下垂徴候)
完全麻痺期~顔面血流を良好にすることが大切。温熱やマッサージなど。
運動回復期~粗大運動(強く目を閉じる、力いっぱい頬を膨らませる、など)は避ける。小さく・ゆっくりとした分離運動がいい。低周波治療は避ける(後述)。
病的共同運動期~フィードバック訓練が多い。
低周波治療
筋萎縮を避ける目的で、低周波治療は行われていた。
でも表情筋に分離させるような刺激方法が困難。
すると、共同運動が生じ、顔面麻痺筋の痙攣や緊張亢進が生じやすい。
このように、顔面神経麻痺に電気刺激はいけないという意見の方は、顔面神経麻痺すべてに電気刺激がいけないという意見なのか?それともこの報告のように時期が過ぎたからいけないという意見なのか?を分けないといけません。
たしかに電気刺激を口輪筋と眼輪筋あたりに同時刺激していたら、病的共同運動が出やすくなります。
大切なのは、病態がどのパターンなのか?回復過程はどの時期に相当しているか?
などをまずは観察・確認することから始めます。
次いで、電気刺激は可能か?無理なら、鍼刺激ならば、細かい筋肉に刺激をすることが可能なので、それでの電気刺激ならどうか?といったように考えていけば、決してダメな方法ではないと思います。
そうしたエビデンスを積み重ねていくことと同時に、病的共同運動の改善を促す鍼の方法もさらに模索していく必要があると思います。