都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

表情筋について

この数日は、顔面神経麻痺について取り上げてきました。

まずは、中枢性と末梢性の鑑別ポイント。

末梢性の場合、ベル麻痺が多く、症状固定までの期間や再発率、免疫力低下とつながりそうな職業などの報告を扱いました。

本日は、治療に関わる表情筋の話です。 

 

島田和幸.表情筋について.Jpn Psychologic Rev. 2000;43(2):220-6.

 

1775年に初めて、表情筋について書かれた本が出たそうです(Santorini.1775)。

 

それ以降、表情筋に関する報告がいくつか出てきて、詳細な解剖が判明してきた経緯があったようです。その中には、末梢性顔面神経麻痺で有名なベルさん(1806年)もいたそうです。

 

人はあらゆる生物の中で最も繊細で複雑な感情を表現する表情ができる。

その表情の基本構造は表情筋群であり、表情筋は他の骨格筋と異なり、筋の一端または両端が皮膚の中に終わる「皮筋」構造のため表情や皺などの形成に関与する。

 

表情筋は、便宜上6分類できる。

1.頚部

2.頭皮(頭蓋冠部)

3.眼瞼部

4.鼻部

5.口裂周囲

6.耳介部

 

1.頚部

 広頚筋下顎骨縁から起こり、第1-3肋骨の高さの皮膚に放散する形で終わる。

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通常は垂直に顎から鎖骨に向かって降りるが、人種や個体差によっては、交差しているものも多い。

その頻度が図2。

 

2.頭皮(頭蓋冠部=頭蓋表情):後頭前頭筋・側頭頭頂筋

後頭前頭筋(前頭筋と後頭筋に分かれ、両者は帽状腱膜で連結)。帽状腱膜が頭皮と強く付着し、骨膜とはゆるい付着のため剥がれやすい。

前頭筋は帽状腱膜から起こって、眼窩上縁の眉部と眉間の間の皮膚に付着

額の皺を形成し、眉毛と上眼瞼皮膚が引きあがる。

「前頭筋 解剖」の画像検索結果

 後頭筋は、後頭部の最上項筋より始まり、帽状腱膜に終わる

「前頭筋 解剖」の画像検索結果

 

側頭頭頂筋は、側頭筋膜から起こり、耳介上部・前部皮膚・側頭筋膜に付着

 

3.眼瞼部

眼輪筋~さらに3つに分かれる

1)眼窩部~内側眼瞼靭帯(目の周囲を輪状にある靭帯)と上顎骨前頭突起、前涙嚢稜から起こり、眼窩縁を取り囲むように形態。この筋肉の一部は、眉毛の内側皮膚に付き、眉毛を下げる筋肉(眉毛下制筋)となる

片目でウインクをするように強く目を閉じる時に作用

2)眼瞼部~眼瞼内にあり、内側眼瞼靭帯から起こり、外眼角側の皮膚(外側眼瞼縫線)に終わる。

まばたきや睡眼など、静かに目を閉じる際に働く

3)涙嚢部~内側眼瞼靭帯の後ろにあり、後涙嚢稜から起こって涙小管と涙嚢を取り巻いて付着。

涙嚢を拡張し、涙を涙嚢に送る働き

「眼輪筋 解剖」の画像検索結果

 4.鼻部

1)鼻根部鼻骨から起こり、両眉毛の間で前頭部の下部を覆って皮膚に終わる。

鼻根部の横皺形成に関与

「鼻根筋 解剖」の画像検索結果

2)鼻筋(横部と鼻翼部に分かれる)

 (1)横部~上顎骨の歯槽隆起前面よりの鼻翼に接する部から鼻背上部で反対側の筋膜に移行。鼻孔の圧迫に働く(鼻孔圧迫筋)。

 (2)鼻翼部~大鼻翼軟骨と鼻尖皮膚に付く。鼻孔拡大に働く(鼻孔開大筋)。

 

眉間あたりから口角にかけて、顔面の静脈が密にあります。

顔面静脈は、眼角静脈(内眼角)から始まり、舌骨の高さで内頚・外頚静脈に合流。

顔面静脈は、吻合に富んでおり、顔面部の深部静脈や頭蓋内の硬膜静脈洞とも吻合している(内眼角付近では、上眼静脈と吻合し頭蓋腔内の顔面静脈洞と連絡など)。

顔面静脈には弁がないので、逆流が起こりやすい。すると、炎症や感染物質が深部静脈や頭蓋内に流れ込むことがある。

なので、この部位の鍼治療を行う際には、特に注意が必要となる。

 

 

関連画像

 5.口裂周囲

1)上唇鼻翼挙筋~眼窩内側縁で上顎骨前頭突起上部から起こり、2束の筋として下外方へいく。このうち外側の筋は上唇に入り上唇挙筋と混ざる。内側の筋は外側鼻軟骨の下で鼻翼の皮膚に停止。一部は鼻筋とも交わる。

鼻翼と上唇を引き上げる働きがある。

2)上唇挙筋~眼輪筋に覆われた眼窩下縁の眼窩下孔下縁の上顎骨前面より起こり、鼻翼と上唇に入る。

3)小頬骨筋~大頬骨筋起始の前内側方の頬骨外面に起こり、上唇の皮膚の入る。上唇挙筋や眼輪筋と重なる部分もある。欠如や変異しているケースが多い筋。

上唇・鼻翼を引き上げ、鼻唇溝の形成に関与

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4)大頬骨筋~頬骨弓の外面、頬骨側頭縫合より起こり、口角部に向かって下前方に走り口角部に入る浅層筋と口輪筋に入る深層筋で終わる。

口角を上外側方に引き上げる

5)笑筋えくぼに関係する筋

耳下腺咬筋筋膜やその近くの皮膚から起こり、口角付近の皮膚に終わる。変異の多い筋肉。

6)下唇下制筋下唇を外側下方へ引く筋肉

オトガイ孔付近から起こり、下唇の皮膚に放散して大部分は終わる。一部は口輪筋と交錯。

7)口角下制筋~下顎骨の下縁から起こり、内上方へ走行し、口角または口輪筋に入る。

口角または下唇を下方へ引き下げる。両方が働くと「へ」の字のような形になる。

両方の口角下制筋がオトガイ下縁でつながった場合、オトガイ横筋といい破格筋とされている。

8)口輪筋~歯槽隆起・鼻中隔部の皮膚から起こり、口角部に付く。

口を軽く閉じる。周囲の筋と連動して強く唇を閉じる。また口を尖らせる働きがある

9)オトガイ筋~下顎の歯槽隆起からオトガイ部の皮膚に付く。

オトガイ部の皮膚を引き上げて下唇を突き出す働き

10)頬筋~顔面表情筋の中で最も深層にある。

頬部の外側壁を形成し、歯槽隆起・下顎骨の頬筋稜から始まり、口輪筋と交錯。

頬壁を歯列に押し付けたり、空気を強く噴き出すときに働くため、トランペット筋ともいわれる。歯列と頬粘膜の間に食べ物が挟まった際に押し出すような働きもある

 

6.耳介部

1)前耳介筋と2)上耳介筋~帽状腱膜や側頭筋膜から起こり、耳介軟骨の上部に終わる。

耳介を前方に引く働き

3)後耳介筋~乳様突起の外側で胸鎖乳突筋の停止部上方から始まり、耳介軟骨の内側に付く。

耳介を後方に引く働き

人では大半が退化している。

 

顔面神経麻痺や美容目的の鍼やマッサージをする際には、こうした解剖や機能をある程度把握して臨むことが望ましいと思われます。

そして、鼻や口角周囲の鍼では、特に感染には注意が必要です。

あまり報告としてはありませんが、顔面神経麻痺になると姿勢も変わってきて、猫背傾向になったりもしますので、そうしたところもアプローチすると治りが早いと思います。