都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

肝胆道系疾患の身体所見

Indirect fist percussion of the liver is a more sensitive thchnique for detecting infections than murphy's sign.

Curr Gerontol Geriatr Res.2015;2015:431638.より

肝臓の叩打痛はマーフィー徴候よりも肝胆道系感染症を検出する

 

肝胆道系疾患において、右上腹部痛とマーフィー徴候は有名な所見である。

また、叩打痛が生じることも知られており、肝胆道系疾患の感染症における所見の検査特性を調査した。

 

対象は、肝胆道系疾患が疑われた408例(平均年齢70歳)であった。

最終的な診断名は、肝胆道系感染症40例、それ以外の肝胆道系疾患65例、肝胆道系疾患以外(肺炎や尿路感染症など)303例であった。

 

マーフィー徴候は、患者を仰臥位とし、左手を前胸部下部へ置き、親指が肋骨に沿うようにし、腹部へ親指を押し込む。患者さんにはその状態で息を吸わせる。そこで、呼吸が妨げられたら陽性

肝叩打痛は、左手を右下位肋骨部に置き、その上を右拳で叩打する。左右差で右の時に顔をしかめるなどの反応があれば陽性

 

その結果、肝胆道系感染症ではマーフィー徴候に比べ、肝叩打痛は高い感度であったが、特異度は低かった。

 

感染症以外の肝胆道系疾患では、マーフィ徴候も肝叩打痛も感度は低い。しかし両方とも特異度は高い。

 

肝胆道系感染症とそれ以外の肝胆道系疾患において、肝叩打痛とマーフィー徴候を組み合わせた結果、感度はたいして変わってはいない。

 

マーフィー徴候は、方法によっては、肝実質を損傷するリスクがある。さらに認知症患者の場合には実施するのが難しいといったデメリットがある。なので、肝叩打痛を試してみるのがいいだろう。

 

この報告では、マーフィー徴候よりも肝叩打痛が除外に有用なテストであった。

マクギーの身体診断学の書籍では、

胆嚢炎検出には、右上腹部の圧痛とマーフィー徴候が有用であり(肝叩打痛の方法は記載があるが、特性については記載なし)、

右上腹部の圧痛~感度60-98%、特異度1-97%、LR+2.7、LR-0.4

マーフィー徴候~感度48-97%、特異度48-98%、LR+3.2、LR-0.6

とされており、感度の幅もあり、LR-も良くはないようだ。

マーフィー徴候の実施には、肝臓を損傷しないように気を付けなければならないが、それでもマーフィー徴候を行う場合、

次の方法を事前に行うといいだろう。

 

The  scratch test for identifying the lower liver edge is at accurate as percussion and is significantly more effective for young training. arandomized comparative trail.

N Z Med J.2016 Dec 2;129(1446):53-63.より

肝臓下縁を特定するための引っかきテストは、打診と同程度の正確さであり、若い研修生には効果的

 

方法:聴診器を剣状突起の真下に置き、人差し指の指先で右下位肋骨を上から下に向かって軽く引っかくようにしていく。肝臓下縁を過ぎると音の著しい減弱を感知することができる。この方法と打診とで、肝臓下縁を同定する精度を比較した。

 

50人に実施したところ、

超音波検査で50人中33人に肝下縁が肋骨よりも下にあった(66%)。その範囲は0.5-16cmであった。

クラッチテストの87%が、誤差2cm以内の精度

打診は、76%が誤差2cm以内であった。

 

クラッチテストは、肝臓下縁を同定するのに有用な方法である。

 

この他、肝下縁を同定するためのフィジカル(身体所見)を比較した報告では、

対象65人(健常者45人、患者20人)に対し、触診、打診、聴性打診の3つの身体所見が肝下縁を同定するのに有用か?を検討した(South Med J.1994 Feb 1;87(2):182-6.)

その結果、

健常者の肝下縁は、聴性打診でのみ同定できた。

患者の場合は、

触診~12人同定でき、うち6人は触診でのみ判明した。

打診~6人同定でき、うち2人は打診でのみ判明

聴性打診~12人同定でき、うち5人は聴性打診でのみ判明した。

 

これより、いずれの方法も肝下縁の同定に有用な方法であるとされた。

 

今回は、肝胆疾患の身体所見についてまとめてみた。

しかし、否定するには弱い所見しかない。

こうなると病歴聴取が重要となる。

近いうち、病歴に関する特性をまとめてみよう。