良性発作性頭位めまい症の総説
めまいといえば、おそらく最も有名なのは「メニエール病」なのではないかと思う。
しかし、発生率からいくと、最も頻度が多いのは良性発作性頭位めまい症(BPPV)である(South Med J.2000;93(2):160-7.)。
今回は、このBPPVに関する総説の抄読。
Benign Paraxysmal Positional Vertigo.
Laryngoscope Investig Otolaryngol.2018 Dec 14;4(1):116-123.より
2018年6月までのBPPVに関する文献の包括的レビュー。
この中から特に頻度の高い後半器官型のBPPVについてまとめてみると、
BPPVは、回転性めまい(Vertigo)の中の17-42%を占める、最も一般的な末梢性めまいである。
生涯罹患率は2.4%、年間発生率は10.7-64/10万人とされている。
50-60歳に多く、やや女性に多い。
BPPVは、突然、頭の特定の動きで、多くは20秒以内の短い持続時間のめまいを発生する(例外として前半規管では長い)。
発症は、突然発症や急性発症の訴えで、多くはベッドからの起き上がり時に気付く。
頻度は多くはないが、頭部外傷をきっかけに発症するケースもある(その場合両耳発症がある)。その他前庭神経炎、片頭痛、メニエール病耳の手術後といったケースもある。
耳石が三半規管のどれかに混入することが原因で発生する。その可能性が最も高いのが後半器官である(80-90%)。
↑これが耳石の写真
耳の中にこの耳石があり、普段はある程度の塊となっているが、頸の過伸展などがきっかけで、耳石がはがれ、三半規管に入り込むことでBPPVを引き起こす。
↑左耳の後半規管に耳石がある状態の模式図
通常は三半規管に耳石は存在しない。
三半規管の中は液体(リンパ液)で満たされていて、頭が動くとそれに合わせて液体が揺れる。その揺れをクプラが感知して、平衡感覚を行う神経と連動することができる。
しかし、耳石が入ると液体の揺れが過剰になったり、いつまでも揺れていることが起きてしまう。そのため、実際の体は動いていないのに、頭は動いているかのように錯覚をして、それがめまいを引き起こす。
耳石による液体の揺れは、長くは続かないので、持続時間は短い。
クプラがなければ、耳石は簡単に元の場所に戻ることができるが、それができないため、Epley法と呼ばれるめまい体操で元の場所に耳石を戻す方法を行う。
問診で気を付けなければならないのは、「平衡障害」と「失神(前失神)と「めまい」を鑑別することから始める。
その後、メニエール病や片頭痛関連性めまいなどを除外すること。
めまいの持続時間は20秒程度だが、非特異的なバランス異常を感じることで、長く訴えることがある。
頸を伸展・屈曲、寝返りなどの特定の動作で誘発される。
後半器官と前半規管では、Dix-Hollpike試験が有用である(感度79~82%、特異度71~75%)。
Dix-hollpike試験で陽性だから、BPPVであると確定してしまうのは、危険である。特異度は70%台であり、中枢性めまいでもDix-hollpike試験が陽性になることもある。必ず中枢性めまいの除外を行う必要がある。
上の図のBのように、Dix-Hollpike試験のとき、頸は過伸展させる必要はない。
頸や背中、腹部、股関節に異常がないことを確認し、異常がある場合は注意が必要である。
中枢性めまいの多くは、BPPVとは異なり潜時がない(前半規管も出ないことがある)、持続時間が長め、疲労現象がない(BPPVは何度も頭を継続的にうごかしているとめまいが起きにくくなる。これを疲労現象と呼ぶ)。
潜時は、通常2-5秒程度である。
25%の患者が1ヵ月以内に自然治癒し、3か月以内に50%とされている。
治療にはEpley法が有効で、70-90%の範囲で有効率がある(NNT=2)。
しかし再発率も高く29%程度とされている。
Epley法で最も大切なのは図の中のA からBに移行しているときである。頭を下垂させる角度が足りないと効果が弱くなる傾向にある。
しっかりと下垂させることが必要だが、普段の生活の中であまりしない動きであるうえに、めまいが起きている最中なので、患者さんは不安だったり恐怖を感じることがある。しっかりと介助して、和らげるように努めることが大切(私見)。
一応読んだが、真新しい情報はなかった。
ついでに、こちらの論文も整理しておく。
HINTS to diagnosis stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedsides oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted.
Stroke.2009 Nov;40(11):3504-10.より
脳梗塞による急性前庭症候群のHINTSによる診断:早期MRIとの比較.
急性前庭症候群(AVS)は、前庭神経炎が原因であることが多いが、脳梗塞が原因で起こることがある。
HINTSは、末梢性めまい(前庭神経炎)と中枢性めまい(脳梗塞に伴うめまい)を鑑別するのに有用な方法として知られている。
しかし、これまでの報告は後ろ向きの研究であり、前向き研究はなかった。
そこで、前向き研究を大学病院内で、1つ以上の脳卒中危険因子を有するAVS患者(めまい、眼振、吐き気/嘔吐、頭の動きの不耐性、不安定な歩行を有する)対象にHINTSと早期MRIの比較を行った(n=101)。
HINTSとは、
Head impulse test:HIT~頭部強制回旋試験
Skew deviation~斜偏視
の3つを指す。
その結果、脳梗塞76名、末梢性25名であった。
症状や所見などを末梢性と中枢性のAVSで比較した結果、
Subtle oculomotor sign:LR-0.0(0.0-0.11)
h-HITが正常または不能:LR-0.07(0.03-0.15)
が除外に有用であった。
http://sjrhem.ca/resident-clinical-pearl-hints-exam-in-acute-vestibular-syndrome/より掲載
また、
その他の所見として、
とされ、HINTSの診断特性は、
感度100%、特異度96%、LR+25(3.66-170.59)、LR-0.00(0.00-0.12)
という結果であった。
脳梗塞でめまいを起こすのは、椎骨脳底動脈による後方循環系の障害が可能性高い。
その場合、他の所見も出現する可能性がある。
Ataxia in posterior circulation stroke: Clinical-MRI correlations.
J Neuraol Sci.2011 Jan 15;300(1-2):39-46.より
PICA(後下小脳動脈)とSCA(上小脳動脈)の症状別頻度
四肢の運動失調:PICA30.8%、SCA94.4%
歩行失調:PICA92.3%、SCA94.4%
構音障害:PICA30.8%、SCA72.2%
眼振:PICA61.5%、SCA83.3%
とされている。
PICAとSCAでは、歩行に異常を生じる可能性が非常に高く、抽出するには継足歩行が可能かどうか?を確認することが有用と考える。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E4%B8%8B%E5%B0%8F%E8%84%B3%E5%8B%95%E8%84%88より掲載
BPPVらしくない場合、継足歩行を行い、継足歩行不可ならば、HINTSを行い、末梢性ならば耳鼻科へ、中枢性ならば脳神経病院を勧めるという感じになる。
また、上記のHITの方法は、頸を痛める可能性があるため、私は左右どちらかの回旋状態から、正面に向くように動かす方法(伝わるか?)を行う方が安全と考え、そちらを実施している。