耳の迷走神経についてのレビュー
本日は、耳介迷走神経の解剖レビューの報告です。
Butt MF, et al. The anatomical basis for transcutaneous auricular vagus nerve stimulation. J Anat. 2019 Nov 19. doi:10.1111/joa.13122.
経皮的耳介迷走神経刺激の解剖の基礎
自律神経系(ANS)は、交感神経と副交感神経があり、副交感神経の主要な構成は第10脳神経である迷走神経である。脳幹と結腸の近位3分の2を結ぶ線維。
その間も胸部や腹部の内臓支配を行っており、20%の遠心性線維と80%の求心性線維で構成。そのため、求心性線維の95%は孤束核に投射され、残りは脊髄三叉神経核・傍腕部・背側縫線核・中脳水道灰白質・視床・扁桃体・島・側坐核・線条体・視床下核に投射される。
また孤束核から青斑核に連結され、ノルアドレナリンが放出される。VNSの治療機序の主要なものとされている。
縫線核や中脳水道灰白質・島などは疼痛と関連する部位
ANSの調節障害は、心不全・炎症性腸疾患・慢性疼痛症候群などと関連し、交感神経の緊張と副交感神経の機能低下となることが多い。
経皮的迷走神経刺激(tVNS)は、このアンバランスな自律神経を調整する方法として有用とされている。
これは、耳介部や頚部の刺激で行われることが多く、耳介部には、アーノルド神経(アルダーマンの神経)とも呼ばれる迷走神経の耳枝(ABVN)があることに関連する。
余談:ロンドンのアルダーマンという地域では、食事前にナプキンを水で湿らせ、耳の後ろに付けることが数百年前まで普通だったそうです。こうすることで、消化が良くなることが経験的に知られていたようです。
ABVNの刺激は、耳咳反射が1.7~4.2%に起こる(耳の発生学から咽頭から耳が進化していったので、耳の刺激で咽頭が影響を受ける)、胃耳介現象・単耳耳介現象・耳介生殖反射・耳介部での体性内臓反射の求心路・耳介子宮反射などが知られている。
しかし、ABVNの皮膚や頭蓋内、中枢性分布などの包括的なレビューは不足している。
このレビューでは、
1.アーノルド反射の臨床研究について
2.遺体の解剖所見
3.fMRI研究
4.電気生理学的研究
5.鍼治療研究
6.ABVNの神経解剖学について
7.耳介迷走神経刺激による心血管系反応について
の7項目をレビュー。
この中のいくつかをまとめておきます。
外耳の解剖学
図1の左側は外耳の概略図で、右側は外耳を支配する神経支配領域を表したもの。ですが、神経支配に関しては注意が必要で、皮膚分布は変化する可能性があること、神経支配の境界は実際は不明瞭で重複している。
ABVN、GAN(大耳介神経)、ATN(耳介側頭神経と三叉神経第3枝の一部)、C2~C3脊髄神経の後頭神経の支配が関与する。
tVNSによる脳部位への投射は、刺激部位・刺激量・通電頻度などで変わってくることが示唆されている。
例えば、外耳道後部の刺激では、孤束核と青斑核は反応なし。
内耳珠とシンバコンチャ(耳甲介のこと?図1のCymba conchae)の刺激は迷走神経求心路を正常に活性化させたとされている。
鍼治療の研究
鍼灸は数千年前から耳鍼での鎮痛効果を利用している。
良く使用される経穴は、TF4・CO14・耳珠あたりが多い。
神経だとABVNと大耳介神経の支配領域が多い。
ある研究では、CO15(心臓)の刺激と高血圧への効果を調べ、減圧された。この効果は「胃」に相当する部位では起きなかった。
内耳珠の電気刺激は、心拍数や心拍変動に影響を与えることも報告されている。
こうしたABVNの刺激に反応する神経線維はAb線維の関与が示されている。しかし、C線維の関与は示されていない。
また、この神経線維の数は個人差があり、多い人と少ない人がいることが示唆されている。
こうした神経線維の報告は遺体の解剖を行った1編の報告だけなので、まだ不確定な部分が大きい。
しかし、この報告が事実なのだとしたら、鍼の効果はどう説明されるのだろうか?
Ab線維は触圧刺激になるので、鍼刺激では基本的に反応しない。
でも有用な結果が出てるのは矛盾するが、ここら辺は要注意‼。
天気痛(雨が降るなどの際に、痛みが強くなる)の方には、耳の前のお灸を勧めています。気持ちがよくて、1日1回をお勧めしています。
顔もポカポカしてきて、むくみ解消・リラックス効果もあります。
長くなったので、こんな感じ。