都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

関節のポキポキ音の正体

本日は、指や首などの関節を曲げたり伸ばしたりした際にでるポキポキ音についてです。

時々、患者さんから「なんで音がなるの?」「鳴らすと指が太くなる?変形していく?」と質問されます。

皆さんはなんと答えていますか?

 

本日の文献は、

Rizvi A, et al. Let's get a hand on this: Review of the clinical anatomy of "knuckle cracking". Clin Anat.2018 Sep;31(6):942-945.

 

この音を、過去の報告ではクラック・ポップ・クランチ・クリック・クレピタス・スナップというように表現しているようです。

ここでは、クラックで統一していきます。

 

関節には、線維性・軟骨性・滑膜の3種類があり、滑膜関節は関節部分が滑液で満たされた空間(滑液が関節包で包まれている)となっている。その代表的なのがMCP関節で、クラックの研究もMCP関節で行われることが多い。

 

クラックの研究は、100年以上に渡り議論されてきて、クラックは滑液の中に生じる気泡がはじける音ではないか?といった「キャビテーション理論」が主軸となっています。

キャビテーション理論と異なる意見として、

関節の靭帯がはじかれた音なのではないか?という報告もある(Ann Rheum Dis.1995;49 :308-9.)この意見に関しては、特に追試もされていないようです。

 

 このキャビテーション理論は、1900年代初頭に出されたいくつかの報告が基になっており、1947年の報告で初めてレントゲンで撮影された(J Anat.1947;81:165-73.)。

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また、一度クラック音が鳴ると、しばらくの間、音が出ない理由も気泡が発生しないことが理由とされている。その時間は約20分と計算されている。滑液内で生じた気泡が破裂して音が鳴り、はじけた気泡が再び滑液に溶け込むのに15分、粘性のある滑液が元の関節の位置まで戻る時間を合わせて約20分という計算のようだ(Ann Rheum Dis.1971; 30:348-358.)。

 

このように、関節内に気泡が発生するのは、間違いないとされている。

しかし、気泡の発生理由と音の関連については議論の余地があった。

 

そんなとき、2015年にMRIを使った検討では、クラック音が鳴った後も、関節内に気泡が残っていることが判明した。これより気泡のはじける音ではないという仮説の元、関節を引っ張り、音がなるまでを連続でMRIで撮影した結果、クラック音は気泡がはじける音ではなく、関節空洞が音の原因であると結論付けた(PLoS One.2015 Apr 15;10(4): e0119470.)。

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これより、クラック音は、「気泡がはじける音ではなく、気泡が形成されるときに際に生じる音ではないか? 」とされた。

 

2018年には、キャビテーション理論を数値化する試みがなされた(Nature Sci Rep.2018;8:4600.)。

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figure4

この数理モデルでは、気泡がはじける音がやはりクラック音の正体と非常に近いとしている。

しかし、先の研究で気泡が残存しているが、これは、気泡の全部がはじけるのではなく、一部だけで、その結果、気泡が残存しているとし、

キャビテーション理論と2015年の報告の矛盾を解消した。

これより、

関節に負荷がかかると、空洞が発生し、気泡が生じる。

さらに負荷(約7㎏とされている)がかかると、気泡の一部が弾けてクラック音がなるが、残りの気泡は残存し、再び滑液内に溶け込む。その時間はクラック音はならない。この不応期は、20分程度必要。

というのが、これまでの報告を簡単にまとめた内容となる。

 

では、

指を鳴らすと、太くなる?変形する?

結論から言うと、太くならないし、変形もしない ということらしい( J Fam Pract. 2016 Oct;65(10):725-726.)

 

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 むしろ、音を鳴らした直後は、関節可動域が若干拡がるという報告もある

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(Clin Orthop Relat Res. 2017 Apr;475(4):1265-1271.)

 

1症例の報告ではあるが、

50年間、毎日2回の左手のMP関節のクラックを行い続けた医師の報告がある( 1998 May;41(5):949-50.)

50年行った結果、関節炎や手の変形などは生じていない。もし、そう訴える人がいたら、それは別の原因によるものだとしている。

 

このように、クラックと変形性関節症の関連を示す報告が初期にはあった(気泡が弾ける際に生じたエネルギーは関節に炎症を起こし腫脹する)が、それらの報告は症例数が少ないことや経過を観察していないもので、信頼性に乏しい。最近では変形性関節症との関連を否定する報告が多く、結論として関係ないということになっている。

 

 

 関節の音が鳴る。たったそれだけを調べるために、多くの研究者が長い時間をかけて解明しようとしています。

50年間、自分の体で実験した医師もいます。

すごいことです。