肌水分と鍼灸についての私見
本日は、肌の水分量と鍼灸効果について私見を交えてまとめてみました。
以前ブログ内で、鍼をすると肌の水分量が増加した報告を取り上げました。
https://blog.hatena.ne.jp/ararepyon/ararepyon.hatenablog.com/edit?entry=26006613442055964
この肌の水分量の中心的役割をになっているのは、皮膚の角層の保湿機能が担っています。
角層の構成要素は大きく4つ。
1.ケラチン
2.天然保湿因子(NMF)
3.Cornified envelope
4.角層細胞脂質
それぞれの役割については省きます(香粧会誌.2017;41(4):277-281.)。
角層のバリア機能や保湿機能が、1つでも機能しないと、ドライスキン(肌水分量の低下)となる。
しかし、基礎疾患により同じドライスキンでも反応は異なる。例えば、アトピー性皮膚炎や乾癬などでは、炎症により表皮ターンオーバーは速くバリア機能低下を伴う。しかし老人性乾皮症では、表皮ターンオーバーは遅くなり、バリア機能低下は伴わない。こうした違いは、先ほどの角層の4つの構成要素が係わるとされている。NMFは、アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症のどちらも低下するとされるが、アトピー性皮膚炎ではさらに細胞間脂質の構築の乱れが起きることも報告されている。
つまり、単に肌が乾燥しているから、水分を与えればいいという訳ではなく、病態によって与え方を変える必要があると推測できる。
その1つとして、保湿剤が挙げられる。
保湿剤は大別すると、「エモリエント」と「ヒューメクタント」に分けられる。
細かいことは省くが、エモリエントは油分で、水分保持機能は低いが、水分の蒸散を抑制し結果的に角層水分量を高めるもの。ワセリンがその代表。
ヒューメクタントは、水溶性で水分保持機能を高める。代表的なのがグリセリン。この中にも保湿性に優れたものや吸湿性に優れたものに分けられる。
つまり、エモリエントは角層細胞間脂質や皮脂の機能を補助し、ヒューメクタントはNMFの機能を補助することになる。
アトピー性皮膚炎では、細胞間脂質とNMFの低下があることでドライスキンになるので、両方の保湿剤を併用することが望ましいと考えられる。その場合、エマルション(乳化剤)がそれに相当する。
そこで、肌の水分量は多ければ多いほど、いいのか?という疑問がでてくる。
Water distribution and related morphology in human stratum at different hydration levels. J Invest Dermatol.2003;120:750-758.
この報告では、水分負荷を行い、SEMと呼ばれる機械で角層の膨張を観察したもの。
その結果、角層の中の中間層が膨張しやすいことが分かった。この部分は、NMFが豊富にある層となっている。しかし通常約30%の皮膚水分量を、300%まで増加させると層全層が膨張し、バリア機能は破綻する。つまり、お風呂で皮膚がふやけたような状態や幼児や高齢者のおむつかぶれの状態を指すと思われる。
また違った視点での報告もある。
Stratum corneum drying drives vertical compression and lipid organization and improves barrier function in vitro. Acta Derm Venereol.2013;93:138-143.
角層に水分を与え、水分が放出(蒸発)される際に角層の構成要素の構築が進み、バリア機能が向上することを報告している。また水分の放出スピードでバリア機能の向上度合いが変わるというものであった。
速乾性だと、角層の再構築が弱く、ゆっくりだと再構築が強くなるということであった。
速く乾くのは、低湿度環境や油分量が少ない状態で起こる。
適切に保湿することがいいという経験を裏付けた報告である。
湿度や温度が肌水分量にどの程度影響するかを調べた報告では、気温は関係なく湿度が影響するとされている(J Environ Eng.2017;734(82):337-345.)。
では、鍼灸治療による肌水分量の増加反応は、どう関わってくるだろうか?
下のグラフは、20代~70代までの30人の女性で、鍼前後の水分量を比較したものです。ちなみに未発表データです。
介入前の肌水分量は全例正常範囲の水分量でしたが、額や顎に比べると頬は若干の数値の低さがありました。
統計処理は行っていませんが、
刺激前は高かった額や顎は鍼後には低下傾向(額はほぼ変わってないというのが正確でしょうが)。
しかし、両頬は増加傾向にありました。
これは、推測でしかありませんが、
鍼により、水分量の多い部分は、水分を放出し角層構成の再構築を行うように働き、水分が必要なところは角層の中間層あたりに水分を保持しようとする働きに向かっているのではないか?と思います。
今のは正常状態の場合ですが、角層バリアを破壊したあとに鍼を行うと水分蒸発量が抑制されることが報告されています(全日鍼.2009;59:347-50.)。
これは、異常な状態から鍼により正常な状態に戻ろうとする反応で、鍼により水分蒸発量を抑えることで角層の再構築を強めようとしているのだと思われます。
また、自分の腕で行ったお灸の温度の違いが肌水分量に違いがでるのか?を昔行ったものですが、
痛みを感じる強さのお灸(侵害熱刺激)では、介入後10分経過したら、介入前よりも水分量が低下。しかし、温かさを感じる程度(温灸刺激)では、10分後も増加傾向にありました。
1例のことなので、はっきりしたことは言えませんが、お灸の温度の違いは肌水分量に変化をもたらしそうです。
こうした鍼灸との関連性は不明な点はありますが、ドーパミンが角層バリア機能を修復することも報告されています。
以上のことから、私見を交えてまとめると
肌の水分量には、角層の機能(バリア機能や保湿機能)が大切で、
鍼灸は、肌の水分量を正常範囲や適切な量に調節しようとする働きをサポートする効果があるのでは?と思われます。
またその効果には、ドーパミンが関与している可能性が示唆される。
現時点では、こんな感じになりそうです。