出生率に対する鍼治療の効果
今回は鍼治療による出生率に対する報告である。
このブログでも、一度取り上げているが、そちらの報告では、出生率は鍼治療の効果は認められていない。
しかし、これまでの報告は鍼治療と無治療や通常治療のみの比較であり、今回は偽鍼治療との比較である。
Effect of acupuncture vs sham acupuncture on live births among women undergoing in vitro fertilization: A randomized clinical trial.
JAMA.2018 May 15;319(19):1990-1998. より
体外受精を受けている女性の出生率に対する鍼治療と偽鍼治療の効果:無作為化臨床試験
体外受精(IVF)を受けている女性に、鍼治療は広く使用されているが、有効性が2層化している。初期の頃は、鍼治療は出生率に対して有効性が示されていたが、近年の報告では否定的である( Acupuncture and assisted reproductive technology. Cochrane Database Syst Rev. 2013;7(7):CD006920.)。そこで、鍼治療と偽鍼治療による比較を行った。
研究:ブラインドRCT、ITT解析、
対象は、2011年6月29日から2015年10月23日までの間にオーストラリアとニュージーランドにおける16施設(IVFを行える)でIVFサイクルを受けている848人の女性(18-42歳)。2016年8月まで出生の追跡調査を行った。
除外基準:凍結胚移植を受けた女性、着床前遺伝子診断を行う予定の女性、ドナー卵子の投与を受けた女性
鍼治療は、伝統的な東洋医学の考え方に基づきつつ、子宮および卵巣への神経支配領域、子宮の血流増加が期待できる部位へ刺激を行った。
主な経穴は、ST-29、Ren-4、Ren-6、SP-6、SP10+αの部位(耳つぼなど)に対して、25分の刺激を行った。
Sham鍼は、経穴とは離れ、皮膚を突き破らない方法で行った。できるだけ生理的作用が発生しないようにした。
その結果、
出生率に2群間の差は認めなかった(鍼群18.3% vs sham群17.8%)
妊娠数は、鍼群408人中105人(25.7%)、sham群406人中88人(21.7%)と差はなし
流産数は、鍼群22.8%、sham群11.6%と有意差はないが、鍼群に多い傾向がある。
有害事象は152人から報告されたが、いずれも治療後の違和感や内出血などの軽微なものであった(内出血は鍼群で有意に多かった)。
ブラインドの結果、鍼群180人(43%)とsham群142人(34%)は、鍼を実際に受けていたと思っていたが、sham群の168人(41%)は偽鍼だと気付いていた。これより、鍼治療群のブラインドは成功したが、sham群では失敗した可能性がある。しかし、これは経過中に有意な差ではなくなった。
研究の限界
当初予定していたサンプルサイズに到達していないこと
胚移植の段階で群間にバラつきが認められた(対照群に多く胚盤胞移植を受けていた)。
治療介入期間の短さ
脱落例が多かったこと
などを挙げている。
出生率に対しては、いくつもの報告で否定されつつある。
鍼治療後に4サイクルの排卵誘発を受けた多嚢胞性卵巣症候群患者1000人のRCTでも出生数は否定された。
また、以前のブログで取り上げた報告でも、出生率は有意差なし、妊娠率は鍼治療で増加とされた。これは、流産している割合が多いことが考えられる。
今回の結果では有意差こそ認めなかったが、流産の割合が鍼群に多い傾向が認められた。現在のところ母体や胎児に対しての影響があるとする報告はコクランレビューでもみられないが、ここらへんのリスクは患者さんに説明すべきかもしれない。
妊娠率は効果がありそうなので、そこまでは鍼治療を行ってもよいが、それ以降は行わない方がいいのかもしれない。
今後も、関連した報告があれば集積して結論を出そうと思う。