原発性月経困難症の鍼灸、メタ解析
The efficacy and safety of acupuncture in women with primary dysmenorrhea: A systematic review and meta-analysis.
Medicine.2018 Jun;97(23):e11007. Doi;10.1097/MD.0000000000011007.より
原発性月経困難症における鍼治療の有効性と安全性:システマティック・レビューとメタアナリシス
月経困難症は、約50-90%の頻度で、そのうち13-51%には日常生活の支障があるとされている。
NSAIDsや経口避妊薬が第一選択薬になるが、やはり問題になるのは副作用だろう。
NSAIDsの副作用~吐き気、消化不良、頭痛、眠気など
経口避妊薬の副作用~嘔気・嘔吐、体重増加、膣出血など
鍼治療による有効性はこれまでにもRCTやシステマティック・レビューで報告されているが、これらの報告では異質性も同時にあるとされている。
その理由として、鍼治療にはその方法がいくつもあり、それらをまとめて解析しているためだとされている。
そこでこの報告では、鍼治療の種類別にメタ解析している。
今回の報告での鍼治療の種類は、
手動鍼治療(MA)、電気鍼療法(EA)、耳鍼(AA)、消化管包埋療法(CET)?、たぶん灸頭鍼?(WA)の5種類について解析を行っている。
よくわからない、鍼治療の方法もあった。
原発性月経困難症の評価方法
疼痛評価~VAS、NRS
総有効率(TER)、改善率
関連症状~VRS、CMSS、RSS、MSS、SF-36
有害事象(AE)
について評価している。
結果
最終的に49編が厳選された(n=3171、10-43歳の範囲)。
使用頻度の高かった経穴~SP6、CV4、SP8、BL32、ST36、SP10、LR3、CV3、EX-B8、BL23
MA vs 治療なし
VAS~治療なしに比べ有意な改善(SMD=1.59[1.06-2.12]、P<0.001)
VRS(n=96)~不眠症の項目でMAに有意に改善(MD=2.04[1.97-2.11]、P<0.001)
CMSS(6編、n=838)~MAに有意な疼痛軽減(MD=7.08[8.53-15.63]、P<0.001)
MA vs プラセボ
疼痛スコアに関して、3編報告あり、うち1件は有意な改善(月経痛n=22、MD=70.67[14.82-126.52]、P=0.01)を、2件は有意差はなし(治療期間は有意差がなく、フォロー期間に有意差あり)であった。
SF-36~有意差なし
MA vs NSAIDs or 経口避妊薬
VAS(5編、NSAIDs、n=255)~MAに有意な改善(SMD=0.63[0.37-0.88]、P<0.001)
NRS(1編、経口避妊薬、n=52)~月経周期ではMAが有意な改善を示したが、フォロー期間は経口避妊薬が有意な改善であった(MD=1.58[0.36-2.80]、P<0.01)。
疼痛(n=1049)~MAはNSAIDsよりも有意な改善効果(RR=1.17[1.11-1.22]、P<0.001)
MSS(3編、n=190)~月経症状がMAに有意に改善(SMD=0.53[0.84-0.23]、P<0.001)
SF-36(1編、n=52)~有意差なし(MD=1.82[9.36-5.72]、P=0.64)
AE(2編)~MAは局所の不快感、出血が1例、頭痛または筋肉痛が4例、発熱1例、経口避妊薬は異常子宮出血9例、頭痛または筋肉痛5例、体重増加3例、悪心・嘔吐2例、乳房出血1例の報告があった。
EA vs 治療なし
VAS(4編、n=97)~EAに有意な疼痛軽減(MD=15.56[22.16-8.95]、P<0.001)
VRS(2編) ~有意差なし(データなしのため解析不可)
RSS(3編)~2編は有意差なし、1編はEAに有意差あり(データがなく、解析不可)
AE(4編)~EA後のめまい1例
EA vs プラセボ
VAS(6編、n=826)~EAに有意な改善(SMD=0.32[0.63-0.01]、P=0.04)
VRS(n=347)~有意差なし(MD=0.20[0.43-0.03]、P=0.10)
RSS(4編)~データ不十分のため、解析不可
AE(5編)~3編はAEの報告例はなかったが、EA後のめまい1例、微小出血1例、プラセボに微小出血と痛み2例が挙がった。
EA vs NSAIDs
TER(2編、n=140)~有意差なし(RR=1.80[0.99-1.18]、P=0.09)
AA vs NSAIDs
1編の報告で、VASに有意差なし(n=70、MD=0.20[0.90-0.50]、P=0.58)
WA vs NSAIDs
VAS(3編、n=114)~WAは有意な改善(SMD=1.12[1.81-0.43]、P=0.002)
TER(6編、n=570)~有意な疼痛軽減(RR=1.22[1.10-1.35]、P<0.001)
AE(2編)~NSAIDsに悪心・嘔吐・発熱5例が挙がった。
CET vs NSAIDs
TER(2編、n=162)~有意な疼痛軽減(RR=1.40[1.19-1.65]、P<0.001)
AE(1編)~NSAIDsは胃腸障害、頭痛、めまい、不眠症が6例挙がった。
結論
鍼治療は、無治療やNSAIDsと比べ月経痛および月経関連症状を効果的に軽減する可能性が示唆された。しかし、プラセボと比べた有効性はあまりないため、根拠が弱いものと考える。
またRCTの質が低いため、限界があったとしている。
この報告は、丁寧にプロトコールが決められており、かなり読み応えがある内容であった。
しかし、報告者が書いているように、解析の異質性を除去するために治療法ごとに解析をするのは好感がもてるが、プラセボとの比較で効果がないから、鍼の根拠は薄いと結論づけるのは、違うと思う(あくまでも、日本鍼灸師の立場としては、だが)。
この報告で使われているプラセボのいくつかは、実際に皮膚に鍼を刺入する方法で、経穴とは異なる部位や、浅く刺すだけの方法が行われている。
日本の鍼灸の多くは中国や韓国の鍼とは方法が異なるため、プラセボの鍼に近いものとなる。
「鍼治療とプラセボに効果がないから、鍼の効果は薄い」としているが、日本の鍼灸師からすれば、「中国などの鍼治療と日本の鍼治療に効果の差はない」と言っているようなものだ(極端に言うとだが)。
今回の報告にはなかったが、例えばMA vs プラセボ vs NSAIDsの比較した解析があれば、なお良かったかもしれないが、そんなRCTがなかったのか?それとも厳選した結果除外されたのだろうか?
この鍼におけるプラセボ問題は、近年日本式鍼治療として少しずつ認知されつつあるが、現状ではまだまだなのだろう。
これが認知されるためには実績を示すしかない。
読んだ感想としては、鍼治療(MA)の方がEAよりも効果は良さそうだ。
また、SF-36に有意差がないとする報告も目立つ。
患者さんは、症状はされたかもしれないが、QOLには不満が残る結果とも言える。
患者さんの満足度を向上させるための方法を模索していく必要がありそうだ。