近年のヨーロッパや韓国におけるRCTでは、軽度の本態性高血圧症に対して鍼治療は、
プラセボと比べて血圧を低下させるとされた(
Circulation 2007 ; 115:3121–3129.、Neurol Res 2007 ; 29:98–103.、Complement Ther Med 2015 ; 23:658–665.)。
その機序として、ラットの後肢への鍼刺激では、腎交感神経と心臓交感神経の活動低下によるものとされる(J Physiol Sci 2007 ; 57:377–382.)
この論文では、血圧と心拍への影響を軽度高血圧患者で調査。
対象は軽度高血圧症(
収縮期血圧[SBP] 130〜139mmHgまたは拡張期血圧[DBP] 80〜89 mmHg)またはSBP 140〜159mmHgまたはDBP90〜 99 mmHg)患者10名と年齢を合わせた対照8名。
評価は、
収縮期血圧(SBP)・
拡張期血圧(DBP)・心拍(HR)・心拍変動(HRV)の
低周波数(LF)と高周波数(HF)を用いた。
鍼治療は、
PC6
LI4
ST36
LR3
GV20
に特気を得た後、15分の置鍼(深さ5㎜)。
両群のベースラインと背景;
特性 |
患者(n = 8) |
コントロール(n = 8) |
p値 |
年齢(年) |
34.8±3.7 |
33.5±2.7 |
NS |
SBP(mmHg) |
140.2±0.2 |
111.9±0.4 |
<0.05 |
DBP(mmHg) |
89.8±0.8 |
70.2±0.6 |
<0.05 |
HR(bpm) |
73.5±0.4 |
65.6±0.4 |
<0.05 |
BMI(kg / m 2) |
27.6±1.7 |
23.7±0.8 |
NS |
HF(ms 2) |
161.1±6.9 |
347.7±23.9 |
<0.05 |
HRVのLF / HF |
5.0±1.2 |
2.9±0.3 |
NS |
SBP・DBP・HRの変化;
HRVの変化;
軽度の高血圧患者では、鍼治療により血圧の低下やHRに変動があったが、対照群では認められなかった。
HRVにおいても、鍼治療は軽度の高血圧患者の心臓交感神経活動を低下させるというこれまでの報告と矛盾しない結果。今回は、そこにHF成分の増加から迷走神経活動が亢進することが加わった。
この報告では、1回の鍼治療により、迷走神経を介して心臓交感神経活動を抑制し、血圧を低下させる効果と機序を明らかにしようとする試みです。
また、血圧が正常なものでは、鍼治療を行っても有意な変化がないことも貴重な結果。
日本人では、血圧のタイプが欧米とは異なることを指摘する意見もある。
いわゆるパンパン型が日本人には多くて、ギュウギュウ型はヨーロッパに多いとするもの。
そのため、日本人の高血圧患者に対して鍼治療はあまり効果がないとする考え方もあります。確かに鍼をして水分量が変動するイメージはあまりありません。
しかし、今回のベースラインや結果をみると、日本人もギュウギュウ型が増えてきているようにも感じます。
これならば、鍼治療の出番も増える可能性があります。
その際に、こうした効果や機序の解明は、強力な後ろ盾になると思われます。