胸郭出口症候群の診断
本日は、胸郭出口症候群について。
Sanders RJ, et al. Diagnosis of thoracic outlet syndrome. J Vasc Surg. 2007 Sep; 46(3): 601-4.
胸郭出口症候群(TOS)は、動脈性・静脈性・神経性の分かれる。
このうち神経性が90%以上を占め、動脈性が最も頻度は低く1%以下。
神経性TOS患者50名の症状;
僧帽筋痛・感覚異常・首の痛み・肩や腕の痛み・後頭部痛などが頻度として高い。
鎖骨上の痛み・胸痛も頻度は高い。
Symptoms | 50 patients (%) |
---|---|
Neck pain | 88 |
Trapezius pain | 92 |
Supraclavicular pain | 76 |
Chest pain | 72 |
Shoulder pain | 88 |
Arm pain | 88 |
Occipital headache | 76 |
Paresthesia: | 98 |
All 5 fingers | 58 |
4th and 5th fingers | 26 |
1st- 3rd fingers | 14 |
No Paresthesia | 2 |
神経性TOSでも、手の色や冷えが出現することがある。これらは動脈性によるものではなく、C8・T1・腕神経叢の神経根の周囲を走行する交感神経の過活動によるもの。それによるレイノー現象が出現(動脈性TOSと間違えやすい)。
動脈性TOSの症状;
指の虚血・跛行・色・冷え。感覚異常・手の痛みが多い。
肩や首の痛みはめったにでない。
鎖骨化動脈の狭窄などによるもので、レイノー現象ではない。
静脈性TOSの症状;
腕の腫脹やチアノーゼが一般的で、痛みはあることもある。
腕のむくみは、神経性や動脈性では出現しない。
腫脹による手指の感覚異常がでることが多い。
タイプ別の身体検査:
静脈性TOS;
腕の腫脹とチアノーゼの有無、肩や胸壁の表在静脈の膨張を確認。
動脈性TOS;
安静時の橈骨動脈の拍動が欠如することが多い。そのため、外転動作などは必要ない。通常、斜角筋の圧痛はなし。
首の動作や頭の傾きなどで症状の再現は起きない。
頸肩の痛みなどは訴えないため、症状であたりがつく。
神経性TOS;
神経性TOS患者50名の身体検査陽性率:
Positive physical findings | 50 patients (%) |
---|---|
Upper Limb Tension Test (ULTT)14 | 98 |
90° Abduction in external rotation | 100 |
Scalene M. tenderness | 94 |
Scalene pressure yields radiating symptoms | 92 |
Neck rotation to opposite side | 90 |
Head tilt to opposite side | 90 |
Sensation to light touch | 68 |
ULTTとは、
ポジション1~肘を伸ばした状態で、肩関節の外転
ポジション2~手関節の伸展
ポジション3~耳を肩に近づける
ポジション1と2は、同側の症状を誘発
ポジション3は、対側で症状を誘発
このテストでは、肘あたりの痛みや感覚異常などが出現しやすい。
Upper Limb Tension Test (ULTT). Position 1: Arms abducted to 90° with elbows extended. Position 2: Dorsiflex wrists. Position 3: Tilt head to side, ear to shoulder. Each maneuver progressively increases stretch on the brachial plexus.
ポジション1から開始して、ポジション2や3で症状の増悪があると強い陽性。
ポジション1と2は再現なく、ポジション3でのみ再現あるのは、弱い陽性。
アドソンテストは、NTOS患者でも陽性になることがある。
過去の報告から陽性率は22%~100%で中央値31%。
健常ボランティアでも陽性になることがあり、9・11・15・59%が報告。
なので、神経性TOSを除外するのに有用なテストではない。
胸郭出口症候群は、鍼灸師も出会うことがあるが、病歴や身体検査でまずはタイプを分け、施術に臨むことが大切。