都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

胸郭出口症候群の診断

本日は、胸郭出口症候群について。

 

Sanders RJ, et al. Diagnosis of thoracic outlet syndrome. J Vasc Surg. 2007 Sep; 46(3): 601-4.

 

胸郭出口症候群(TOS)は、動脈性・静脈性・神経性の分かれる。

このうち神経性が90%以上を占め、動脈性が最も頻度は低く1%以下。

 

 

神経性TOS患者50名の症状;

僧帽筋痛・感覚異常・首の痛み・肩や腕の痛み・後頭部痛などが頻度として高い。

鎖骨上の痛み・胸痛も頻度は高い。

Table IIncidence of specific symptoms in last 50 patients
Symptoms 50 patients (%)
Neck pain 88
Trapezius pain 92
Supraclavicular pain 76
Chest pain 72
Shoulder pain 88
Arm pain 88
Occipital headache 76
Paresthesia: 98
All 5 fingers 58
4th and 5th fingers 26
1st- 3rd fingers 14
No Paresthesia 2

神経性TOSでも、手の色や冷えが出現することがある。これらは動脈性によるものではなく、C8・T1・腕神経叢の神経根の周囲を走行する交感神経の過活動によるもの。それによるレイノー現象が出現(動脈性TOSと間違えやすい)。

 

動脈性TOSの症状;

指の虚血・跛行・色・冷え。感覚異常・手の痛みが多い。

肩や首の痛みはめったにでない。

鎖骨化動脈の狭窄などによるもので、レイノー現象ではない。

 

静脈性TOSの症状;

腕の腫脹やチアノーゼが一般的で、痛みはあることもある。

腕のむくみは、神経性や動脈性では出現しない。

腫脹による手指の感覚異常がでることが多い。

 

タイプ別の身体検査:

 

静脈性TOS

腕の腫脹とチアノーゼの有無、肩や胸壁の表在静脈の膨張を確認。

 

動脈性TOS

安静時の橈骨動脈の拍動が欠如することが多い。そのため、外転動作などは必要ない。通常、斜角筋の圧痛はなし。

首の動作や頭の傾きなどで症状の再現は起きない。

頸肩の痛みなどは訴えないため、症状であたりがつく。

 

神経性TOS

神経性TOS患者50名の身体検査陽性率:

 

Table IIPositive physical findings in 50 patients
Positive physical findings 50 patients (%)
Upper Limb Tension Test (ULTT)14 98
90° Abduction in external rotation 100
Scalene M. tenderness 94
Scalene pressure yields radiating symptoms 92
Neck rotation to opposite side 90
Head tilt to opposite side 90
Sensation to light touch 68

ULTTとは、

ポジション1~肘を伸ばした状態で、肩関節の外転

ポジション2~手関節の伸展

ポジション3~耳を肩に近づける

ポジション1と2は、同側の症状を誘発

ポジション3は、対側で症状を誘発

このテストでは、肘あたりの痛みや感覚異常などが出現しやすい。

Large image of Fig.

Upper Limb Tension Test (ULTT). Position 1: Arms abducted to 90° with elbows extended. Position 2: Dorsiflex wrists. Position 3: Tilt head to side, ear to shoulder. Each maneuver progressively increases stretch on the brachial plexus.

ポジション1から開始して、ポジション2や3で症状の増悪があると強い陽性。

ポジション1と2は再現なく、ポジション3でのみ再現あるのは、弱い陽性。

 

アドソンテストは、NTOS患者でも陽性になることがある。

過去の報告から陽性率は22%~100%で中央値31%。

健常ボランティアでも陽性になることがあり、9・11・15・59%が報告。

なので、神経性TOSを除外するのに有用なテストではない。

 

胸郭出口症候群は、鍼灸師も出会うことがあるが、病歴や身体検査でまずはタイプを分け、施術に臨むことが大切。