胆のう手術後も残る痛み
以前、脊髄損傷で四肢麻痺の方が、胆石症を発症した際に、左下肢の痺れを訴えておられました。話を聞くと坐骨神経に沿った痛みを訴え、梨状筋周辺を探ると痺れが和らぐとのことで、鍼施術を梨状筋に行いました(拘縮なども強く、SLRなどの所見はいずれも行えなかった)。ですが、痺れはいいような気がするのみで、持続はしていました。
その後、腹腔鏡下での胆石摘出を行ったところ、坐骨神経の痺れも消失。関連痛であったと思われる患者さんを経験したことがあります。
ときに、予想していないようなケースに遭遇することがあり、あわてないようにしっかりと勉強し、想像力を養う必要があるなと思った瞬間でした。
本日は、この患者さんのケースとは違いますが、胆嚢摘出後症候群についてです。
森田章夫、他.胆嚢摘出後症候群についての検討.日臨外医会誌. 1992; 53(7): 1560-1565.
胆石症などの胆道疾患の摘出術後に、術前と同様の症状が持続する、あるいは、術前にはなかった新たな症状が出現するものを呼ぶ。
この胆嚢摘出後症候群の頻度などについて検討した。
胆嚢結石症305例のうち胆嚢摘出術を行った276例(男性121例、女性155例、平均年齢55.1歳)が対象
術前の症状
無症状:34例(12.3%)
上腹部痛:210例(76.1%)
発熱:54例(19.6%)
黄疸:40例(14.5%)
背部痛:10例(3.6%)
全身倦怠感:3例(1.1%)
嘔気嘔吐:3例(1.1%)
Charcotの三徴~上腹部痛・37℃以上の発熱・総ビリルビン値3.0以上
本文とは関係ないですが、こうした症状の頻度をみると上腹部痛などを主訴として鍼灸院に来られる可能性がありますね。
術後の合併症例は37例(13.4%)だったが、いずれも適切な処置で対応できていた。
術後安定したものは197例(86.0%)で、少しでも不定愁訴などを訴えたのは32例(14.0%)
で、そのほとんどが術前の基礎疾患に関連するものと考えられた。
軽度ではあるが腹痛を訴える者が多く、術前には無症状であったが術後腹痛を訴えるケースがあった。
胆嚢摘出後症候群は、3.2~13.1%の範囲で報告されている。
今回の報告では、腹痛が14例(6.1%)に認められ、術後数年後まで残存した。
鍼灸院にこうした患者さんが来られた際に、手術をしたのに痛みが残っているとはあまり考えないが、こうした報告を知っていると、想像することができる。
そして、可能性を考えて問診や身体所見を行っていくことができるだろう。
現在、海外で胆嚢摘出後症候群に対する鍼治療の有効性についての研究が行われようとしているようです(Medicine. 2019 Aug; 98(32): e16769.)。
発生頻度は高くないかもしれませんが、結果がどうなるか楽しみです。