都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

フランスでのバージャー病の疫学

2020 Aug;71(7):621-625.
 doi: 10.1177/0003319720920163. Epub 2020 Apr 22.

Did the Clinical Spectrum of Thromboangiitis Obliterans Change in the Past 40 Years?

 
以前、ブログ内にて日本におけるバージャー病の疫学を書いてますが、
今回はフランスでの過去40年にわたる疫学調査の比較です。
バージャー病は、東南アジアとヨーロッパでは、東南アジアの方が多いとされていますが、症状などの出現率などはどうなのでしょうか?
 
バージャー病(閉塞性血栓血管病;TAO)の診断基準;
Table 1. Shionoya Diagnostic Criteria.a
 
診断基準を満たした182名のTAOの背景;
男性が多く、平均年齢38歳前後
レイノー現象があるのが45%
左右差は特になし

f:id:ararepyon:20210326065529p:plain

1967-2002年と2002年以降に分けると、
女性の増加傾向あり(有意差はなし)
年齢は増加
上肢症状は増え、下肢症状は減少
レイノー現象は増加

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レイノー現象をみたらTAOも考える。
TAOは下肢に多いというのは変わらないけど、上肢も増えているというのは忘れないでおくといいかもしれません。
 
 

四辺形間隙症候群:Quadrilateral space

Case Reports
 
May-Aug 2019;27(2):2309499019847145.
 doi: 10.1177/2309499019847145.

Quadrilateral space syndrome: The forgotten differential

Quadrilateral space syndrome(QLSS);四辺形間隙症候群

1983 Jan;8(1):65-9.で最初に報告されたよう。
18名のQLSSをまとめているとのこと。本文は読んでません。

 

上腕骨・大円筋・小円筋・上腕三頭筋長頭で構成される四辺形の間隙を、

腋窩神経・後上腕回旋動脈(PCA)が通過し、この部位の障害により、

肩関節側面~後面の疼痛や上腕の痺れなどが起こる。

好発年齢は20-40歳代

バスケットや野球などの運動はリスク因子

利き手に多い

可動域制限はないこともあるが、挙上で増悪・夜間増悪が多い


                        figure

 

鑑別疾患として、

胸郭出口症候群

頚部神経根症(C5/C6)⇒腋窩神経

腕神経叢障害

など

 

今年の症例報告では、エコーが有用かもしれないとされている。

2021 Mar 12;100(10):e24976.
 doi: 10.1097/MD.0000000000024976.

Musculoskeletal ultrasound diagnosis of quadrilateral space syndrome: A case report

 
30歳代の男性。
慢性の肩痛を訴える。
An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is medi-100-e24976-g001.jpg

 

治療は、NSAIDや安静が基本らしい。

難治性では、除圧術が行われることもある。

 

長いあいだ、痛みや痺れで悩んでいる方の原因はこれかもしれないので、

忘れないようにする。

 

またその場合の相談があった場合、鍼灸で出来ることは?

Baker嚢腫による腓骨神経麻痺

腓骨神経麻痺を呈した膝窩嚢腫の1例
 

 

 

症例;50歳、男性

誘因なく、左下腿の腫脹と左足関節の背屈不可

診察時に左膝窩部に腫脹、左腓骨神経領域の知覚鈍麻・前脛骨筋と長母趾伸筋の筋力低下を認めた。

Baker嚢腫による腓骨神経麻痺とされた。

 

Baker嚢腫の多くは、腓腹筋-半膜様筋滑液包が、変形性関節症や関節リウマチなどの合併で起こる。

通常は無症状だが、外側へ腫大すると膝窩動脈の圧迫から下肢の痺れや跛行、膝窩静脈の圧迫から下肢の腫脹やしびれ、脛骨神経の圧迫による下腿の痺れが出現することがある。

さらに外側へ腫大すると腓骨神経障害が加わる。

そのため、脛骨神経症状を伴わない腓骨神経症状は極めてまれ(過去に数例の報告があるよう)。

 

この場合、神経障害を起こしている嚢腫を取り除くことが必要となるとのこと。

 

肝血管腫の自然経過

肝 血 管 腫 の 自然 経 過 に 関 す る検 討
及川 ルイ子 ・浅野 耕 司*・小野 良樹 ・阿部 真 弓
小川 眞広 ・山本 義信 ・荒川 泰行**

日消集検誌. 第35巻4号. 1997.7

 

血管腫は、肝臓の非上皮性良性腫瘍の中で最も頻度が高い(全肝腫瘍の76%を占める)。

血管腫の組織は、毛細血管腫と海綿状血管腫の2パターンが多く、海綿状血管腫の方が多い(肝臓 59 巻 3 号 187―193(2018))。

肝海綿状血管腫は、全人口の0.4-7.3%に認められる。

 

健康診断を受けた19028名のうち、肝血管腫がみつかった139名(男性70名、女性69名)

性差の発現頻度;男性0.53%、女性1.18%で有意に女性に多い

年齢別;男性は40歳代、女性は50歳代がピーク

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血管腫の大きさ;2.0cm以下で75%程度を占める

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3年間で2回の検査を受け、大きさに変化があったか?

97.1%は変化なし

2.9%は増大傾向を認めた

最大で4mmの増大があった。

この変化は、肝細胞がんとの鑑別点にもなる。

増大スピードが肝血管腫の方が緩慢であるということは特徴になる。

 

血管腫と似た悪性腫瘍で肝血管肉腫がある(肝臓 58 巻 2 号 115―122(2017))。

また、海綿状血管腫の内部に血栓や壊死、瘢痕形成、石灰化などを起こし、腫瘍組織が硬化する肝硬化性血管腫もある(日臨外会誌 77(1),128―134,2016)。

肝海綿状血管腫の多くは、無症状で経過観察で対応することが多い(腫瘍の大きさが4cmを超えると腹部不快感などが起こることがある)が、

感染症や破裂、腫瘍内出血、Kasabach ─ Merritt症候群などを合併した場合は治療対象となるので、注意が必要。

Kasabach ─ Merritt症候群とは、血管腫内で血栓が形成され、それにより血小板や凝固因子が消費され出血傾向を示すもの。

破裂では、突発性の心窩部痛や誘因なく起こる

 

爪から分かる疾患

 

Review

Am Fam Physician2012 Apr 15;85(8):779-87.

Evaluation of nail abnormalities

 
爪を観察することで、局所疾患ないしは全身疾患の予測がつくことがある。
 
 爪から分かる局所症状;
 
ジストロフィーネイル:マニキュア・噛む・こするなどの刺激が繰り返されることで起こる。こうした原因行動を中止すると改善する。
 
ロイコニキア(LEUKONYCHIA):
健康な子供などでも起こり得る。特別な治療は必要なし
 
 
縦方向のメラノニキア:
健康なものでも起こり得るが、黒色腫でも起こる。
 
爪真菌症:爪疾患の50%を占める。真菌などで起こる。人口の10%に起こる。根底に免疫低下がある場合もある。局所治療(外用剤)は効果が薄い。
 
爪囲炎(A急性・B慢性・C感染症を伴う):
爪周囲の組織への細菌侵入による炎症反応。多くは外傷が引き金で起こる。
しかし料理人などの水分と接触する機会が多い方、刺激物などでも起こる。
乾癬やライター症候群などは、再発性の場合は鑑別に挙がる。
こうした状態が6週間以上で慢性となる。
 
扁平上皮癌:
 
爪下血腫:外傷により起こることが多い。
 
全身疾患;
Beau lines:爪甲を水平に走る溝
重度の病気、化学療法、レイノー病、天疱瘡、高熱などがあると起こることがある。
 
ばち指(Clubbing):通常は全指に発生し、1つの爪だけに起こることは稀。
Schamrothサイン(B)やLovibond角度(C)
肝硬変、COPDセリアック病などの兆候で起こる。
 
スプーンネイル:鉄欠乏性貧血で起こるが乳児では正常。
 
ミーズ線:
ヒ素中毒が主、他の重金属、腎不全で起こることがある
 
Muehrckeライン:
爪甲に白い線が2つできる。
これは爪床由来で、線が遠位に移動しない。
爪甲に圧力を加えると消退する。
アルブミン血症でおこることがある。
 
巻き爪(ピンチネイル):
ベータ遮断薬の使用、乾癬、爪真菌症、爪甲の腫瘍、全身性エリテマトーデス、川崎病、および悪性腫瘍に関連
 
Splinter hemorrhage:
血管から漏出したもの。
爪甲への圧力を加えても消退しない。
心内膜炎患者の15%に認められる。
外傷、乾癬などで起こる。
 
 

アッヘンバッハ症候群 (Achenbach's syndrome)

Case Reports
 
2020 Sep 7;13(9):e238156.
 doi: 10.1136/bcr-2020-238156.

Achenbach's syndrome

 
45歳、ポルトガル女性
右手第5指の痛みを訴えて救急科へ
第5指と第1指、母指球にあざ様の浮腫と変色有り
定期的に服用する薬剤なく
同様のエピソードもなし
身体所見;
爪の毛細血管充満試験は正常
左右上肢の血圧に差はなし
アレンテスト陰性
変色は、寒冷暴露との関連なし
血液検査でも、特に異常なし
患者は、5日後に自然寛解
Figure 1
臨床経過などから、アッヘンバッハ症候群と診断された。
アッヘンバッハ症候群は、原因不明の発作性指血腫で、あざを伴う突然の痛みが起こり数日以内に消退することが多い。
特別な予防や治療法はなし
 
2017 Jun 29;376(26):e53.
66歳女性。右手の第3指に発症
この方は3週間前にも同様のエピソードあり
自然に寛解した
 
2019 Jun 15;58(12):1807.
 
30歳、日本人女性
このぐらいのあざのこともあるので、見逃し注意
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2019 May 26;7(10):1103-1110.
 
先行研究による24症例をまとめた報告
発症の平均年齢は48歳
女性に多い

Demographic data of patients

Variable n or mean ± SD % or min-max
Age 47.91 ± 11.72 21-67
Female 20 83.33
Male 4 16.67
Family history 1 4.1
Bruising elsewhere 2 8.3
Diabetes 3 12.5
Hypertension 7 29.1
Smoking 4 16.6
Alcohol 0 -
Antiplatelet use 0 -
Anticoagulant use 0 -
Pathology in arterial duplex ultrasonography 0 -
Pathology in venous duplex ultrasonography 0 -

min: Minimum; max: Maximum.

症状;
痛みとあざを訴えることが多い
半数が腫れも
1/3に知覚異常
左右差はやや右手に多い傾向がある
第2指>第3指>第1指の順で多い

Achenbach’s syndrome symptoms and location features

Symptom / location n or mean % or min-max
Swollen 13 54.1
Pain 24 100
Paresthesia 9 37.5
Bruising 24 100
Mean episode count 3.04 1-6
Thumb 4 16.6
Index finger 8 33.3
Middle finger 7 29.1
Ring finger 3 12.5
Little finger 1 4.1
Other, Palmar, wrist, etc 1 4.1
Right hand 13 54.1
Left hand 11 45.8

min: Minimum; max: Maximum.

鑑別疾患;
レイノー症候群
虚血性血管障害
しもやけ
バージャー病
など
Differential diagnosis
Raynaud’s syndrome or phenomenon Thoracic outlet syndrome
Spontaneous digital venous thrombosis Trauma
Gardner-Diamond syndrome Collagen vascular disease
Atherosclerosis Buerger disease
Takayasu arteritis Ulnar artery thrombosis
Giant cell arteritis Radial artery thrombosis
Aneurysmal disease producing emboli Microemboli
Vibration-induced injury Polycythemia
Cold injury Cryoglobulinemia
Dermatitis artefacta Spontaneous rupture of the vincula
Acute limb ischemia Chilblain’s disease
Acrocyanosis Acrorygosis
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

耳鳴りに対する迷走神経刺激のシステマチックレビュー

2021 Mar 11;16(3):e0247221.
 doi: 10.1371/journal.pone.0247221. eCollection 2021.

Tinnitus treatment by vagus nerve stimulation: A systematic review

 
耳鳴りに対する迷走神経刺激は、比較的最近の治療法
その作用機序として、現在は孤束核-青斑核-大脳基底核-大脳皮質の神経の興奮と抑制を調節役割があると考えられている(. 2013 Jan;295:58-66.) 
 
Frontiers | Treating Depression with Transcutaneous Auricular Vagus Nerve  Stimulation: State of the Art and Future Perspectives | Psychiatry
 
最終的に9編(2編のRCT、5編のコホート研究、2編のケーススタディ)が厳選
 

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9編のうち、5編が経皮的迷走神経(vns)治療、4編が埋め込み型vns治療

vns治療+音響治療が6編

結果は、方法論に幅がありすぎて(異質性)、結果をプールできなかった。
 
経皮的vns治療の報告の研究概要;

Suk etal. 2018年に前向きコホート研究を実施し、耳鳴りの持続期間が3か月以上の24人の患者が2週間にわたって4回の経皮的VNSセッション;1箇所30ヘルツを4分 を実施]。これらのセッションでは、痛みを感じる手前ぐらいの刺激を耳珠などに行った。彼らの研究の結果は、vasによる耳鳴り症状の重症度、および治療後1か月のTHIスコア(45⇒27)、ラウドネスは45.8%が改善。

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シムら。2015年に治療抵抗性を示した12ヶ月以上の慢性耳鳴り患者30人。経皮的VNSは、耳介コンチャのパッチと音響治療を組み合わせて10セッション実施。VASとTHI(41.5⇒35.46)は、治療前と治療直後に測定。

 

メイら tVNSを8週間毎日VS塩酸フルナリジンとオリザノールによる経口薬物療法のRCT。外来耳鳴り患者、および耳鳴りの期間が異なる(再発性耳鳴り> 1か月または持続性> 5日)大学からの耳鳴りのボランティアが含まれた。彼らの研究における耳鳴り症状の重症度の結果は、THIによって評価。

9編の報告の結果まとめ;

 

耳鳴りは大脳辺縁系側坐核との関連が強いことが示されている(. 2011 Jan 13;69(1):33-43.)

そして経皮的vns治療は、大脳辺縁系に影響するというほうこくもある。

 
同時に耳鳴りが抑うつ気分などになりやすいのも、大脳辺縁系の影響と考えられる。
 
こうした精神的な苦痛の緩和、耳鳴りの症状緩和に経皮的vnsは有用かもしれないが、このレビューでは、rctなどが不足しているため、大規模な研究が必要としている。