胸痛の良性疾患
胸部や上腹部の痛みを訴えるけど、よく分からないケースは多い印象があります。
そこで、胸痛の良性疾患についてまとめてみます。
まずは、胸痛の原因別頻度;
アメリカの外来・ヨーロッパの外来・救急搬送の3パターンで原因別頻度
外来受診では筋骨格系の割合が多く、救急では重篤な心血管系疾患の割合が多い。
いずれも原因不明は11-16%ある。
Epidemiology of Chest Pain in Primary Care and Emergency Department Settings
DIAGNOSIS* | PERCENTAGE OF PATIENTS PRESENTING WITH CHEST PAIN | ||
---|---|---|---|
PRIMARY CARE: UNITED STATES4 | PRIMARY CARE: EUROPE3 | EMERGENCY DEPARTMENT3 | |
Musculoskeletal condition(筋骨格系) |
36 |
29 |
7 |
Gastrointestinal disease(消化器疾患) |
19 |
10 |
3 |
Serious cardiovascular disease†(重篤な心血管系疾患) |
16 |
13 |
54 |
Stable coronary artery disease(狭心症) |
10 |
8 |
13 |
Unstable coronary artery disease(不安定狭心症) |
1.5 |
— |
13 |
Psychosocial or psychiatric disease(心因性) |
8 |
17 |
9 |
Pulmonary disease‡(肺疾患) |
5 |
20 |
12 |
Nonspecific chest pain(原因不明) |
16 |
11 |
15 |
次いで、日本での原因別頻度
日本公衆衛生雑誌.1990;37:569.
沖縄医学会雑誌.1993;30:301.
総合外来では、心血管系と筋骨格系がほぼ同程度の割合
鍼灸院に来られる胸痛患者さんの特徴は、上記の報告の外来患者と類似すると考えると、
1.筋骨格系
2.心血管系
3.神経痛
の3つをまずは押さえておく必要があります。
肋軟骨炎40歳以上の中年に多い。上部肋軟骨や胸肋関節に複数の圧痛を認めるが、腫脹はない。
ティーツェ症候群~40歳以下の無菌性肋軟骨炎。稀ではあるが、第2・第3肋軟骨や胸肋関節のいずれか1箇所に腫脹を伴う圧痛がある。
ティーツェ症候群~40歳以下の無菌性肋軟骨炎。稀ではあるが、第2・第3肋軟骨や胸肋関節のいずれか1箇所に腫脹を伴う圧痛がある。
流行性筋痛症(ボルンホルム病)~ウイルス感染による急性の筋痛。深呼吸や咳で増悪するので胸膜炎と間違えやすいが、胸壁や腹壁に圧痛がある。
Precordial Catch~小児や若年に多い。誘因なく突然、数秒から数分かけて鋭い疼痛が起こる(左前胸部が多い)。吸気で増悪し、肋間筋の痙攣と考えられている。
肋間神経痛
肋骨すべり症候群(下部肋骨痛症候群;Slipping Rib Syndrome)~肋骨を胸骨につなぐ靭帯が弱くなり、肋骨がずれて肋下神経を圧迫する。肋骨炎に沿った上腹部痛を訴える。第8-10肋骨に起こりやすい。身体所見としてHooking maneuver
この胸壁痛を起こす疾患の割合;
195名の胸壁症候群患者の最大疼痛部位
a・b⇒胸骨・胸鎖関節・胸骨肋骨接合部:17.0%
C⇒剣状突起:3.1%
①⇒大胸筋:右3.1% 左20.5%
②⇒腋窩:右2.6% 左6.2%
③⇒肋骨肋軟骨接合部:右6.2% 左35.8%
④⇒肋骨下縁:右2.6% 左3.1%
突然発症や増悪傾向、圧迫感、疼痛部位が不明瞭、冷や汗、持続時間が数分~30分などを認める場合は心血管系疾患の可能性が上がるので、注意。
鋭い痛みやピリピリした痛みを指で示せて、数秒の持続時間ならば筋骨格系の可能性が上がるので、上記の胸壁症候群などを参考にする。