都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

日本における閉塞性血栓血管炎の疫学

2020 Sep 25;84(10):1786-1796.
 doi: 10.1253/circj.CJ-19-1165. Epub 2020 Sep 1.

Current Trends in Epidemiology and Clinical Features of Thromboangiitis Obliterans in Japan - A Nationwide Survey Using the Medical Support System Database

 
閉塞性血栓血管炎(TAO)はバージャー病;ビュルガー病として知られる原因不明の比較的まれな疾患(稀少疾患難病指定)です。
中型もしくは小型の血管に炎症が起こり、手足の遠位部に虚血が起こるものです。
このTAOの疫学は不明な点が多く、今回は日本での疫学調査を実施したもの。
 
現在の診断基準や鑑別疾患、重症度分類は以下の通り

表1. バージャー病の診断基準

  1. 50歳未満の発症
  2. 喫煙歴を有する
  3. 膝窩動脈以下の閉塞がある
  4. 動脈閉塞がある、または遊走性静脈炎の既往がある
  5. 高血圧症、高脂血症、糖尿病を合併しない

以上の5項目を満たし、膠原病の検査所見が陰性の場合、バージャー病と診断できるが、女性例、非喫煙例では鑑別診断を厳密に行う。


表2. 鑑別診断

  1. 閉塞性動脈硬化
  2. 外傷性動脈血栓症
  3. 膝窩動脈捕捉症候群
  4. 膝窩動脈外膜嚢腫
  5. 全身性エリテマトーデス
  6. 強皮症
  7. 血管ベーチェット病
  8. 胸郭出口症候群
  9. 心房細動

重症度分類

バージャー病の重症度分類
3度以上を医療費助成の対象とする。

1度

患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化(蒼白、虚血性紅潮など)を呈する患者であるが、禁煙も含む日常のケア、または薬物療法などで社会生活・日常生活に支障のないもの。

2度

上記の症状と同時に間欠性跛行(主として足底筋群、足部、下腿筋)を有する患者で、薬物療法などにより、社会生活・日常生活上の障害が許容範囲内にあるもの。

3度

指趾の色調変化(蒼白、チアノーゼ)と限局性の小潰瘍や壊死または3度以上の間欠性跛行を伴う患者。通常の保存的療法のみでは、社会生活に許容範囲を超える支障があり、外科療法の相対的適応となる。

4度

指趾の潰瘍形成により疼痛(安静時疼痛)が強く、社会生活・日常生活に著しく支障を来す。薬物療法は相対的適応となる。したがって入院加療を要することもある。

5度

激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの。(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など)

 
この調査では、TAOの推定有病率は、2000年以降減少傾向を示している。
表2.日本の全人口およびPAOD患者におけるTAOの推定有病率
会計年度*
受信者の総数
人口、
×10 

TAOの推定有病率、
/ 10 5(95%CI)

PAOD人口全体におけるTAOの推定有病率、§
%(95%CI)
2000年 10,089 1,269.26 7.95(7.79–8.10)  
2001年 10,051 1,273.16 7.89(7.74–8.05)  
2002年 9,758 1,274.86 7.65(7.50–7.81)  
2003年 9,085 1,274.69 7.13(6.98–7.27)  
2004年 8,642 1,277.87 6.76(6.62–6.91)  
2005年 8,371 1,277.68 6.55(6.41〜6.69)  
2006年 8,121 1,279.01 6.35(6.21〜6.49)  
2007年 7,950 1,280.03 6.21(6.07–6.35)  
2008年 7,789 1,280.84 6.08(5.95–6.22) 7,789 / 108,900、7.15%(7.00–7.31)
2009年 7,591 1,280.32 5.93(5.80–6.06)  
2010年 7,147 1,280.57 5.58(5.45–5.71)  
2011 7,282 1,278.34 5.70(5.57–5.83) 7,282 / 111,300、6.54%(6.40–6.69)
2012年 7,109 1,275.93 5.57(5.44–5.70)  
2013年 6,979 1,274.14 5.48(5.35–5.61)  
2014年 7,043 1,272.37 5.54(5.41〜5.66) 7,043 / 115,1000、6.12%(5.98–6.26)
年齢や性差は、男性に多く、35-54歳に多い
症状;
片側のこともあれば、両側性のこともある。
上下肢に症状が出現する例も少ないけどいる。
表4.初回訪問時の兆候と症状
変数 全体
(n = 88)
登録時の年齢 喫煙歴 セックス
<50歳
(n = 53)
50年以上
(n = 35)
P値 現在の
喫煙者
(n = 82)

喫煙しない
(n = 6)
P値 男性
(n = 76)
女性
(n = 12)
P値
指の冷たさ、しびれ、
またはレイノー現象
83(94) 49(92) 34(97) 0.65 77(94) 6(100) > 0.99 71(93) 12(100) > 0.99
間欠性跛行 39(44) 23(43) 16(45) 0.51 38(46) 1(17) 0.10 34(45) 5(42) > 0.99
指の残りの痛み 67(76) 40(75) 27(77) > 0.99 64(78) 3(50) 0.15 56(74) 11(92) 0.28
指潰瘍 40(45) 22(42) 18(51) 0.39 38(46) 2(33) 0.58 32(42) 8(67) 0.13
壊疽 22(25) 9(17) 13(37) 0.045 21(26) 1(17) > 0.99 17(22) 5(42) 0.17
静脈炎 6(7) 2(4) 4(11) 0.22 6(7) 0 > 0.99 5(7) 1(8) > 0.99

データは患者数(列のパーセンテージ)として表されます。

 
動脈病変は、上肢54%・下肢69%と下肢に多く出現する傾向。
脛骨動脈(58%)>前腕動脈(56%)>膝窩動脈(16%)の順で閉塞する順が多かった。