都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

不安感の強い患者さんは、重篤感があるかも

患者さんをパッとみて、なんかやばいと思ったとき、患者さんは高サイトカイン血症(サイトカインストーム)かもしれない。という報告。

 

高サイトカイン血症の説明;日小血会誌15: 81-87, 2001. より

免 疫系が外来 因子に対 して反応するシステムは大きく分けて二種類ある.1つは特異性 を保持しながら進行するシステムで,自己と他者の認識にかかわり,レセプターとリガン ドの結合に1:1対 応が確保され,特異性が保証される.応用問題として,たとえばT細胞レセプターは特異抗原のみを認識するのではなく,抗原提示細胞上の<MHCclassI/II+抗 原ペプチド>複合体を認識したり, 認識の多様性を確保するためにレセ プター構 造の1部を複数 の受容体が共有したりする.

もう一つは,反応系の強弱や反応量の調節にかかわるシステムで,サ イトカイ ンに代表される非特異的反応である.特異的免疫系が起 動すると,その部分の反応系の進行は特異性 は保持しながら非特異的にサイ トカインの量的調節に委ねられ,一 般的には時間的経緯の中で反応の増幅と減衰の調節下に入る.

ところで,免 疫 系の異常が想定 され る疾患には,システムを構築する部品の構造異常に よる先天性・後天性免疫不全症候群のほかに,自己免疫疾患のような自己・他者の認識異常による疾患(リウマチ性疾患),システム起動後に反応経路の選択に異常が生じる疾患(ア レルギー性疾患)などがあるが,産生される非特異的免疫物質であるサイトカインの量的異常による疾患の認識が近年進んできた.免疫系の言語を司る情報タンパクであるサイトカイ ンが,量的異常をきたし過剰となった場合に組織障害性を獲得するということは,す でに1990年代初めに敗血症の理解とともに明らかにされた.最近このカテ ゴリーの疾患 を「高サイトカイ ン血症症候群 」と呼び, あるいは「cytokine storm」という概念で括 られる病態として捉えられるようになった.

 

本日扱う報告は、非特異的免疫系によるサイトカインの量的異常は、不安感や重篤感として表出されることを検討した報告です。

 

 2011 Oct;32(19):2405-11. doi: 10.1093/eurheartj/ehr132. Epub 2011 Jun 1.

Fear of dying and inflammation following acute coronary syndrome.

 

例えば、急性心筋梗塞を疑うような、胸やけを訴える患者さんが来られたとします。

胸やけでは、胃食道逆流症(GERD)なども考えますが、その患者さんをみた際に、「重篤感」や「重症感」はないかをまずは探ります。

重篤感は、不安そうな顔・強い倦怠感がある・動作がスロー・活気がない・雰囲気がとても暗い、などといったものです。

こうした徴候があれば、心筋梗塞などの危険な状態かもしれません。

心筋壊死や無菌性炎症による高サイトカイン血症かもしれないからです。

 

この報告では、急性冠症候群(ACS)患者さん280名を対象に、不安感とTNF-αや炎症反応、心拍変動などの関連性を検討。

 

その結果、

不安感が軽度・中等度・重度の3段階とTNF-αの関係;

年齢や性別、患者背景などは調整後

TNF-αが12pg/ml以上では、軽度以上の不安感が発生し、関連性があるとした。

腫瘍壊死因子α値が12 pl / mL以上の患者の割合は、苦痛が軽度、中程度、または激しく、死に至る恐れがあると報告しています。 値は、年齢、性別、民族性、婚姻状態、社会的剥奪、入院時のスタチン使用、GRACEスコア、入院日数、および痛みの強さで調整されます。 エラーバーは平均の標準誤差です。

 

TNF-αと心拍変動との関係;

両者には有意な関連があり。また婚姻状態にも関連があった。

 

Table 2

Regression of tumour necrosis factor α and covariates on heart rate variability. Unstandardized regression coefficient B and 95% confidence intervals

  RMSSD
HF-HRV
LF-HRV
  B (95% C.I.) P B (95% C.I.) P B (95% C.I.) P
Age  0.008 (−0.017–0.034)  0.51  0.027 (−0.021–0.075)  0.27  −0.005 (−0.011–0.001)  0.12 
Gendera  0.009 (−0.493–0.511)  0.97  0.202 (−0.757–1.16)  0.68  −0.067 (−0.192–0.058)  0.29 
Ethnicityb  0.063 (−0.362–0.487)  0.77  0.078 (−0.734–0.890)  0.85  0.041 (−0.147–0.064)  0.44 
Marital statusc  −0.396 (−0.767–0.024)  0.037  −0.967 (−1.68–0.257)  0.008  0.110 (0.017–0.203)  0.020 
Social deprivationd  −0.039 (−0.283–0.205)  0.75  −0.001 (−0.468–0.466)  0.99  −0.047 (−0.107–0.014)  0.13 
GRACE score  −0.006 (−0.018–0.005)  0.28  −0.016 (−0.038–0.005)  0.13  0.001 (−0.003–0.003)  0.86 
Days in hospital  0.360 (0.018–0.703)  0.039  0.667 (0.012–1.32)  0.046  −0.007 (−0.094–0.081)  0.88 
Beta-blockers  −0.227 (−0.609–0.154)  0.24  −0.351 (−1.08–0.379)  0.34  0.014 (−0.080–0.108)  0.77 
Statins  0.463 (−0.203–1.13)  0.17  0.371 (−0.902–1.64)  0.56  0.039 (−0.126–0.204)  0.64 
Renin−angiotensin medications  0.187 (−0.328–0.702)  0.47  0.623 (−0.362–1.61)  0.21  0.104 (−0.024–0.232)  0.11 
Platelet medication  0.994 (−0.362–0.487)  0.25  2.131 (−1.15–5.41)  0.20  −0.192 (−0.615–0.231)  0.37 
TNFα during admission  −0.449 (−0.772–0.125)  0.007  −0.823 (−1.44–0.205)  0.010  0.003 (0.001–0.006)  0.002 
    

aMen reference group;

bWhite European reference group;

cMarried reference group;

dLow-deprivation reference group.

 

唾液コルチゾールとの関係;

不安感の程度が強い(実線)ほど、唾液コルチゾール分泌が少ない傾向にある。

TNF-αとコルチゾールの関連はなし。

低(点線)、中程度(点線)、または激しい苦痛と死の恐怖(実線)を経験している患者の1日の唾液コルチゾールプロファイル。 サンプルは、起床時(wake)、30分後(w + 30)、その後10:00 h、14:00 h、19:00 h、就寝時に取得されました。 年齢、性別、民族性、婚姻状況、社会的剥奪、GRACEスコア、入院時のスタチン、喫煙状況について調整された値。 エラーバーは平均の標準誤差です。

 

ACSによる不安感は炎症性反応と関連があり、様々な患者背景とは独立したものであると示唆される。

 

こうしたうつや不安感といった精神状態を感じ取ることは、患者さんの危険度と相関するかもしれないという、あまり見ない系統の報告です。

なんかやばいという感覚の1つの結果です。