嘔気・嘔吐の考え方
本日は、嘔気・嘔吐について。
嘔気は、悪心や吐き気とも言われますが、使い分けは調べてみましたがよく分かりません。
日本のガイドラインの中でも、悪心を採用しているものもあれば、嘔気のものもあります。
あるガイドラインでは、嘔気を採用していて、「消化管の内容物を口から吐出したいという切迫した不快な感覚」としています。英語ではnauseaとされます。
鍼灸院にも、嘔気・嘔吐を昨日したんだというような病歴の患者さんが来られる可能性があり、その際にどのように考えるか?を文献を調べてみました。
嘔吐の機序として、
Krakauer EL, et al. Case records of the massachusetts general hospital. weekly clinicopathological exercises. Case 6-2005. A 58-year-old man esophageal cancer and nausea, vomiting, and intractable hiccups. N Engl J Med. 2005 Feb 24;352(8):817-25.
嘔吐の機序は、脳幹の嘔吐中枢が、主に4つの経路で刺激を受けると嘔吐を起こす。
1.消化管や心臓~胸痛;急性冠動脈症候群、下痢・便秘・嚥下困難;急性胃腸炎や胃がん、腸閉塞など、第9(舌咽)・10(迷走)脳神経を介して嘔吐中枢刺激
2.中枢神経系~脳疾患や髄膜炎など、もらいゲロなども入る。この経路には、嘔吐を誘発する経路と抑制する経路がある。この抑制経路が働くと、我慢ができる。
これは鍼の制吐作用の機序につながる。
3.前庭系~乗り物酔いやめまいによるもの。
4.CTZ(Chemoreceptor trigger zone)~CTZには血液脳関門がないため、薬物や毒物が入り込みやすい。アルコール中毒や薬物中毒などがある。また脳圧亢進によるものもあるそう。
妊娠悪阻などはどこに入るのだろうか?
慢性の嘔気・嘔吐での考え方
Lacy BE, et al. Chronic nausea and vomiting: evaluation and treatment. Am J Gastroenterol. 2018 May;113(5):647-659.
慢性の嘔気と嘔吐:評価と治療
4週間以上の嘔気と嘔吐は慢性症状となる。
嘔気・嘔吐などの定義
有病率は不明だが、社会的・経済的な損失や個人のQOL低下につながる。
上記の4経路と似ているが、
中咽頭・筋骨格系・胃腸系・心臓・CTZ・前庭系からの入力が嘔吐中枢に入ることで起こる。
このうちコモンな疾患
胃不全麻痺・機能性消化不良・周期性嘔吐症候群・カンナビノイド悪阻症候群・慢性嘔気および嘔吐症候群・解剖学的原因(幽門部閉塞、腸閉塞、消化管の圧迫、虚血による狭窄、クローン病、放射線)・慢性膵炎・肝胆障害・内分泌障害(糖尿病、高血糖)、腸閉塞・血管障害・膠原病(SLE、強皮症)・腎不全・前庭障害・食道障害(アカラシア、ゼンカー憩室)・薬(オピオイド、抗生物質、抗不整脈、抗痙攣薬)・神経障害(パーキンソン病、片頭痛)・心疾患・摂食障害・心因性・その他(アルコール、性交渉など)
コモンではない疾患
分類;
考え方のフローチャート;
最初は、胃腸症状(例胃不全麻痺など)と非胃腸症状(前庭系、薬物、神経障害)に分ける。
胃腸症状では、嘔気・嘔吐以外に下痢・便秘・嚥下困難・腹痛といった症状がないかを確認。
本文とは別に個人的な考えでは、
胃腸障害で多いのは、機能性消化不良(J Fam Pract.2001 Jun;50(6):538-43.)なので、器質的な消化器症状がないことを確認;夜間痛発作・食事での疼痛変化などがないかを確認して、なかった場合は機能性消化不良の可能性が上がる
めまいを伴う場合は前庭系
薬物は、最近の薬剤服用歴
神経障害は、頭痛を伴うか?を確認
心疾患は、胸痛を確認
代謝性は、口渇・多飲・多尿・若年女性を確認
摂食障害は、手の吐きタコや体重変化を確認
といったのも併せて考えるといいかもしれません。
嘔吐の様子と原因疾患;
検査;
嘔吐がどんなときに起きたのか?は参考となる。
嘔気・嘔吐を主訴で来られた方は経験はないですが、随伴症状として嘔気嘔吐はありえます。
そんなときは、消化器系と心臓、前庭系、中枢神経系、CTZの4つは覚えておくといいかもしれません。あと、摂食障害と妊娠(妊娠はないと言っても、まれに妊娠してることがある)はどうやって確認するか?はもう少し考えたいところです。