肩の痛みPart1;解剖と分類
肩の痛みの診察法について。Part1-4に分けて、書いていきます。
まずはPart1の解剖と肩の痛みの分類について。
基本的にマクギーの本をベースにしています(p380-388)。
解剖の知識
・肩を構成する骨;1上腕骨、2鎖骨、3肩甲骨
・4つの関節;1肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)、2肩鎖関節、3胸鎖関節、4肩甲胸郭関節
・3つの靭帯;1肩鎖靭帯、2烏口鎖骨靭帯、3烏口肩峰靭帯:このほかにも烏口上腕靭帯などもあります
・滑液包(肩関節周囲を取り囲む);1肩峰下包(肩峰下滑液包)、2烏口突起と関節包、3上腕二頭筋腱
・筋肉:回旋筋腱板(rotator cuff);1棘上筋、2棘下筋、3小円筋、4肩甲下筋
⇒上腕骨につき、肩関節運動のほとんどに関与する。しかしもろい。
:上腕二頭筋(長頭と短頭)
肩痛の分類;
James Cyriaxという英国の整形外科医か考えたもので、
疼痛部位・受動運動による可動域・回旋筋腱板の筋力・Painful Arcで主に4つに分類。
1.関節包症候群~癒着性関節包炎、肩関節炎、五十肩など;頻度5~12%
2.急性滑液包炎~肩峰下滑液包炎;頻度17%
3.肩鎖関節痛;頻度5-11%
4.肩峰下症候群~回旋筋腱板炎、断裂;47-65%
分類には入ってないが、その他として関連痛(頻度5-10%)や上腕二頭筋腱炎もある。
1.関節包症候群;五十肩や癒着性関節包炎
(1)癒着性関節包炎:別名では凍結肩(Frozen shulder)
・外傷などで数週間安静にしたあと起こる
⇒機序として、自己免疫(炎症)が示唆されており、関節可動域の制限あり
・関節包とその周辺の「のり付け」が起こった状態
・痛み+能動的・受動的関節可動域制限
(2)五十肩;正しい病名ではない
・1800年代の江戸時代からあり、長命病とされた
・40-60歳代に明らかな外傷がない有痛性関節拘縮
・明らかな原因がある場合は五十肩とは呼ばない
3.肩鎖関節痛
遠位上腕二頭筋腱の不全断裂
肩痛の鑑別の1つに、上腕二頭筋長頭の痛みがありますが、
今回は、ひじ痛の鑑別で、遠位部の上腕二頭筋腱の不全断裂です。
遠位上腕二頭筋腱(Distal Biceps Tendon;DBT)の断裂は、近位部と比べて比較的稀とされているようです。
遠位部の完全断裂と不全断裂があり、
完全断裂では、通常急激な発症・著名な肘関節の屈曲と前腕回外の筋力低下が認められ、上腕二頭筋筋腹の中枢移動あり、診断は容易。
https://www.londonupperlimbsurgery.co.uk/distal-biceps-rupture
しかし不全断裂は、発症は緩徐・筋力低下も軽度・典型例を示すことは稀とのこと。
本文では2症例が提示されていて、
誘因と思われるものとして、1例はウエイトリフティングだったが、もう1例は誘因なし。
疼痛部位は、両者ともに肘窩部から近位前腕部。抵抗運動で疼痛誘発。
関節可動域の制限はなし。
前腕回外運動で軽度筋力の低下あり(MMT5/4)。
手術で改善。
1例それっぽい方を経験したことがありますが、
肘痛の原因として、不全断裂ないし損傷例は鑑別候補として忘れないようにしたいです。
腹部ミグレンについて
Abdominal migraine
足底筋膜炎の機序を考えるためのトラス構造とウィンドラス機構
手足症候群について
本日は、厚労省のホームページより
手足症候群について。
厚労省が医薬品の使用で発生する副作用疾患について平成17年度より予測・予防型の安全対策のために始まった事業。
その1つに2010年から手足症候群に関する項目が公開され、がん領域では最初のコンテンツとなっています。
手足症候群(Hand-foot syndrome)は、
従来より複数の名称を統合したような疾患名で、
手掌・足底発赤知覚不全症候群;Palmar-plantar erythrodysesthesia syndrome(PPES)
肢端紅斑;Acral erythema
化学療法薬誘発性肢端紅斑;Chemotherapy-induce acral erythema
手掌・足底紅斑;Palmar-plantar erythema
手足皮膚反応;Hand-foot skin reaction
と呼ばれていることもあり、昔の文献で探す際には、こうした疾患名で探すとヒットする。
手足症候群は、原因薬剤で症状が少し異なる。
化学療法薬~初期症状としては、しびれ・チクチク感・ピリピリといった感覚異常や不快感から始まり、次第にびまん性の発赤や紅斑、光沢をもつ浮腫状の皮膚、点状ないしは斑状の色素沈着が起こり、重篤化すると痛みも追加される。
薬剤を中止することで、比較的緩やかに回復する。
分子標的薬~初期から限局性に紅斑と軽度の痛みが起こり、特に加重・加圧部に強い角化を起こす。重篤化で強い痛みになる。
薬剤の中止で、比較的速やかに回復。
発生の機序については、色々な報告があるようですが、はっきりとは分かっていない。
手足症候群は、日本人を含むアジア人に高頻度で発生するとされ、
SHARP試験(欧米)において、手足症候群の発生率は21.2%
Asia-pacific試験(アジア人対象)では、45.0%の発生率
日本人を対象にした臨床試験では、55.0%の発生率
とされています。
手足症候群の発生は、薬剤使用から1ヶ月以内に起こることがほとんど。