都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

肩の痛みPart1;解剖と分類

肩の痛みの診察法について。Part1-4に分けて、書いていきます。

まずはPart1の解剖と肩の痛みの分類について。

 

基本的にマクギーの本をベースにしています(p380-388)。

マクギーの身体診断学 | 柴田 寿彦 (総合病院南生協病院名誉院長), 長田 芳幸(総合病院南生協病院内科) |本 | 通販 | Amazon

解剖の知識

・肩を構成する骨;1上腕骨、2鎖骨、3肩甲骨

・4つの関節;1肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)、2肩鎖関節、3胸鎖関節、4肩甲胸郭関節

・3つの靭帯;1肩鎖靭帯、2烏口鎖骨靭帯、3烏口肩峰靭帯:このほかにも烏口上腕靭帯などもあります

・滑液包(肩関節周囲を取り囲む);1肩峰下包(肩峰下滑液包)、2烏口突起と関節包、3上腕二頭筋

・筋肉:回旋筋腱板(rotator cuff);1棘上筋、2棘下筋、3小円筋、4肩甲下筋

⇒上腕骨につき、肩関節運動のほとんどに関与する。しかしもろい。

   :三角筋僧帽筋、菱形筋、大円筋

   :上腕二頭筋(長頭と短頭)

 

肩痛の分類;

James Cyriaxという英国の整形外科医か考えたもので、

疼痛部位・受動運動による可動域・回旋筋腱板の筋力・Painful Arcで主に4つに分類。

1.関節包症候群~癒着性関節包炎、肩関節炎、五十肩など;頻度5~12%

2.急性滑液包炎~肩峰下滑液包炎;頻度17%

3.肩鎖関節痛;頻度5-11%

4.肩峰下症候群~回旋筋腱板炎、断裂;47-65%

分類には入ってないが、その他として関連痛(頻度5-10%)や上腕二頭筋腱炎もある。

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1.関節包症候群;五十肩や癒着性関節包炎

(1)癒着性関節包炎:別名では凍結肩(Frozen shulder)

・外傷などで数週間安静にしたあと起こる

⇒機序として、自己免疫(炎症)が示唆されており、関節可動域の制限あり

・関節包とその周辺の「のり付け」が起こった状態

・痛み+能動的・受動的関節可動域制限

(2)五十肩;正しい病名ではない

1800年代の江戸時代からあり、長命病とされた

・40-60歳代に明らかな外傷がない有痛性関節拘縮

・明らかな原因がある場合は五十肩とは呼ばない

 

3.肩鎖関節痛

 

 

遠位上腕二頭筋腱の不全断裂

肩痛の鑑別の1つに、上腕二頭筋長頭の痛みがありますが、

今回は、ひじ痛の鑑別で、遠位部の上腕二頭筋腱の不全断裂です。

 
遠位上腕二頭筋腱不全断裂の2例
 
日本肘学会雑誌.2018;25(2):265-267.

 

Distal Biceps Tear: What You Should Know (Video): Town Center Orthopaedic  Associates:

遠位上腕二頭筋腱(Distal Biceps Tendon;DBT)の断裂は、近位部と比べて比較的稀とされているようです。

遠位部の完全断裂と不全断裂があり、

完全断裂では、通常急激な発症・著名な肘関節の屈曲と前腕回外の筋力低下が認められ、上腕二頭筋筋腹の中枢移動あり、診断は容易。

Distal-biceps-rupture

https://www.londonupperlimbsurgery.co.uk/distal-biceps-rupture

 

しかし不全断裂は、発症は緩徐・筋力低下も軽度・典型例を示すことは稀とのこと。

 

本文では2症例が提示されていて、

誘因と思われるものとして、1例はウエイトリフティングだったが、もう1例は誘因なし。

疼痛部位は、両者ともに肘窩部から近位前腕部。抵抗運動で疼痛誘発。

関節可動域の制限はなし。

前腕回外運動で軽度筋力の低下あり(MMT5/4)。

手術で改善。

 

1例それっぽい方を経験したことがありますが、

肘痛の原因として、不全断裂ないし損傷例は鑑別候補として忘れないようにしたいです。

 

 

 

腹部ミグレンについて

Review
 
2018 Feb 19;360:k179.
 doi: 10.1136/bmj.k179.

Abdominal migraine

 
Migraineといえば、片頭痛で使われる単語ですが、
腹部Migraineとなれば、小児期に多い繰り返す腹痛を指します。
検査に異常所見は得られず、原因不明の反復性腹痛では、
腹部ミグレンを鑑別に浮かべます。
 
好発年齢は6-12歳で、12歳がピーク、14歳以上では下がる(成人例の報告ある)。
男女比は1:1.6とやや女性に多い
片頭痛と合併することが多い⇒家族歴に片頭痛があることが多い
腹痛の寛解要因は、安静・睡眠・鎮痛剤の使用
 
 
特徴としては(本文BOX1より)、
・上腹部痛(心窩部痛の訴えが約50%)を呈することが多く、症状の持続時間は1時間以上
・腹痛がないときは、全く症状がなく元気
・腹痛に加え、顔面蒼白、食欲低下、嘔吐、羞明、頭痛、他のEpisodicな症状(周期性嘔吐や四肢の疼痛)のいずれかを伴う
・発作の強度は、日常生活に支障がある強さ
・精神や身体の発達障害はない
とされます。
 
片頭痛と腹部ミグレンは、病態のオーバーラップがあると思われます。
片頭痛患者さんや家族歴がある場合は、少し意識してもいいかもしれません。
 

足底筋膜炎の機序を考えるためのトラス構造とウィンドラス機構

 
足底筋膜炎
△踵の痛みとして頻度の高い疾患
特徴として、
△座位などから立位へ変わるとき、1歩足を踏み出す時などに痛みが出現するが、動くと痛みは軽減していく
△圧痛点は、踵中央部で内・外側にはない(あった場合は疲労骨折などを考慮する)
足底筋膜炎のメカニズム | STARTLE|PHYSIOスポーツ医科学研究所
△ランナーやダンサーに多い⇒踵骨起始部に小さな断裂
△肥満者・長時間の立位(Policeman’s heel)に多い
 
運動で起こる場合と立位や肥満で起こる場合では、少し機序が異なる。
その機序として、トラス構造とウィンドラス機構の2つの足部機能を知っておくと役に立つ。
距骨下関節とWindlass機構 | 歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】
△トラス構造
肥満や長時間の立位で起こる足底筋膜炎では、
荷重(≒体重)が足底に加わると、足底腱膜に対して張力が発生する。
これが持続されると足底腱膜への負荷がキャリーオーバーとなり炎症を起こす。
このトラス構造を破綻させやすい要因として、「扁平足」があります。
そこに肥満や長時間の立位といった「きっかけ」が加わると起こりやすい。
ダイエットやインソールなどで対応することは大切ですが、扁平足にも対応することが必要。
 
△ウィンドラス機構
ランナーやダンサーが走る・飛ぶなどの動作を繰り返す際に、
足のMP関節を背屈することになります。
すると、足底腱膜が収縮して、足の縦アーチが上がる(短くなるような・丸くなるような)ことで、反発力を増大させて走る動きになったり、ジャンプしたりする。
これを繰り返すと、やがて踵骨起始部に小さな断裂が起こり、炎症を起こすことに繋がる。
注意;
ランナーの場合、短距離ではつま先着地ですが、マラソンでは足裏全体で着地もしくは踵着地になるので、トラス構造も加わります。
 
 
 
 
 

手足症候群について

本日は、厚労省のホームページより

厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル

手足症候群について。

 

厚労省が医薬品の使用で発生する副作用疾患について平成17年度より予測・予防型の安全対策のために始まった事業。

その1つに2010年から手足症候群に関する項目が公開され、がん領域では最初のコンテンツとなっています。

 

手足症候群(Hand-foot syndrome)は、

従来より複数の名称を統合したような疾患名で、

手掌・足底発赤知覚不全症候群;Palmar-plantar erythrodysesthesia syndrome(PPES)

肢端紅斑;Acral erythema

化学療法薬誘発性肢端紅斑;Chemotherapy-induce acral erythema

手掌・足底紅斑;Palmar-plantar erythema

手足皮膚反応;Hand-foot skin reaction

と呼ばれていることもあり、昔の文献で探す際には、こうした疾患名で探すとヒットする。

 

手足症候群は、原因薬剤で症状が少し異なる。

化学療法薬~初期症状としては、しびれ・チクチク感・ピリピリといった感覚異常や不快感から始まり、次第にびまん性の発赤や紅斑、光沢をもつ浮腫状の皮膚、点状ないしは斑状の色素沈着が起こり、重篤化すると痛みも追加される。

薬剤を中止することで、比較的緩やかに回復する。

分子標的薬~初期から限局性に紅斑と軽度の痛みが起こり、特に加重・加圧部に強い角化を起こす。重篤化で強い痛みになる。

薬剤の中止で、比較的速やかに回復。

皮膚障害-2 手足症候群|副作用対策講座|消化器癌治療の広場 GI cancer-net

発生の機序については、色々な報告があるようですが、はっきりとは分かっていない。

 

手足症候群は、日本人を含むアジア人に高頻度で発生するとされ、

SHARP試験(欧米)において、手足症候群の発生率は21.2%

Asia-pacific試験(アジア人対象)では、45.0%の発生率

日本人を対象にした臨床試験では、55.0%の発生率

とされています。

手足症候群の発生は、薬剤使用から1ヶ月以内に起こることがほとんど。

 

 

 

軽度の高血圧症への鍼治療は迷走神経を介して降圧する可能性

Comparative Study
 
. 2021 Apr;27(4):342-348.
 doi: 10.1089/acm.2020.0324. Epub 2021 Jan 28.
Effects of a Single Session of Acupuncture Treatment on Blood Pressure and Heart Rate Variability in Patients with Mild Hypertension
 
近年のヨーロッパや韓国におけるRCTでは、軽度の本態性高血圧症に対して鍼治療は、プラセボと比べて血圧を低下させるとされた(Circulation 2007 ; 115:3121–3129.、Neurol Res 2007 ; 29:98–103.、Complement Ther Med 2015 ; 23:658–665.)。
 
その機序として、ラットの後肢への鍼刺激では、腎交感神経と心臓交感神経の活動低下によるものとされる(J Physiol Sci 2007 ; 57:377–382.)
 
この論文では、血圧と心拍への影響を軽度高血圧患者で調査。
 
対象は軽度高血圧症(収縮期血圧[SBP] 130〜139mmHgまたは拡張期血圧[DBP] 80〜89 mmHg)またはSBP 140〜159mmHgまたはDBP90〜 99 mmHg)患者10名と年齢を合わせた対照8名。
 
評価は、収縮期血圧(SBP)・拡張期血圧(DBP)・心拍(HR)・心拍変動(HRV)の低周波数(LF)と高周波数(HF)を用いた。
 
鍼治療は、
PC6
LI4
ST36
LR3
GV20
に特気を得た後、15分の置鍼(深さ5㎜)。
 
両群のベースラインと背景;
特性 患者(n  = 8) コントロールn  = 8) p値
年齢(年) 34.8±3.7 33.5±2.7 NS
SBP(mmHg) 140.2±0.2 111.9±0.4 <0.05
DBP(mmHg) 89.8±0.8 70.2±0.6 <0.05
HR(bpm 73.5±0.4 65.6±0.4 <0.05
BMI(kg / m 2 27.6±1.7 23.7±0.8 NS
HF(ms 2 161.1±6.9 347.7±23.9 <0.05
HRVのLF / HF 5.0±1.2 2.9±0.3 NS
 
SBP・DBP・HRの変化;
イチジク。1.1。
 
 HRVの変化;
イチジク。 3.3。
軽度の高血圧患者では、鍼治療により血圧の低下やHRに変動があったが、対照群では認められなかった。
HRVにおいても、鍼治療は軽度の高血圧患者の心臓交感神経活動を低下させるというこれまでの報告と矛盾しない結果。今回は、そこにHF成分の増加から迷走神経活動が亢進することが加わった。
 
この報告では、1回の鍼治療により、迷走神経を介して心臓交感神経活動を抑制し、血圧を低下させる効果と機序を明らかにしようとする試みです。
また、血圧が正常なものでは、鍼治療を行っても有意な変化がないことも貴重な結果。
 
日本人では、血圧のタイプが欧米とは異なることを指摘する意見もある。
いわゆるパンパン型が日本人には多くて、ギュウギュウ型はヨーロッパに多いとするもの。
そのため、日本人の高血圧患者に対して鍼治療はあまり効果がないとする考え方もあります。確かに鍼をして水分量が変動するイメージはあまりありません。
しかし、今回のベースラインや結果をみると、日本人もギュウギュウ型が増えてきているようにも感じます。
これならば、鍼治療の出番も増える可能性があります。
その際に、こうした効果や機序の解明は、強力な後ろ盾になると思われます。
写真・図版 | 高血圧男性は立ちションより「座りション」がおすすめのワケ〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

血圧が正常範囲でも、収縮期血圧が下がれば心血管疾患の予防となる

Meta-Analysis
 
2021 May 1;397(10285):1625-1636.
 doi: 10.1016/S0140-6736(21)00590-0.

Pharmacological blood pressure lowering for primary and secondary prevention of cardiovascular disease across different levels of blood pressure: an individual participant-level data meta-analysis

 
正常~正常高値血圧の血圧降下効果は?
日本における高血圧治療ガイドライン2019では、
 
正常血圧値;<120/80mmHg
正常高値血圧値;120-129/<80mmHg
高値血圧;130-139/80-89mmHg
高血圧;≧140/90mmHg
とされています。
 
これまで心血管疾患の有無に関わらず、血圧が正常もしくは正常高値の方の降圧効果は不明だった。
そこで、収縮期血圧を下げることによる心血管疾患のリスクは変化するかをメタ解析。
 
48件のRCT(34万4716例)を解析。
平均血圧は、心血管既往グループ(15万7728例);146/84mmHg
非既往グループ(18万6988例);157/89mmHg、
収縮期血圧が130未満で、
心血管既往グループなのは19.8%(3万1239例)
非既往グループなのは8.0%(1万4928例)
 
1000人・年当たりの発症率は、
既往グループ;
対照群:39.7(95%CI 39.0~40.5)%
降圧群:36.0(95%CI 35.3~36.7)%
非既往グループ;
対照群:31.9(95%CI 31.3~32.5)%
降圧群:25.9(95%CI 25.4~26.4)%
 
収縮期血圧が5mmHg低下するごとの、対照群と降圧群のハザード比;
左;既往グループ、右;非既往グループ
 
An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is gr1.jpg
 
5mmHg下がるごとの、各心血管疾患のハザード比;
普段の血圧が120でも降圧することによる効果がある。
 
An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is gr4a.jpg
 
心血管疾患の既往に関わらず、どの血圧レベルであっても降圧はリスクを下げる。
その効果は、
5mmHg下がると、心血管疾患のリスクが10%下がる