都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

疼痛と心理社会ストレス

痛みに対する破局的思考と心理社会的ストレスの関連
森 聡1),永易 利夫1),甲田 広明2),井上 大樹3)

理学療法学術大会抄録集.2015より

 

抄録

【はじめに】長期間持続する慢性疼痛の形成と進展には様々なストレス要因が関連すると考えられている。近年,慢性疼痛において,痛みの経験をネガティブに捉える傾向を評価する破局的思考の重要性が提唱されている。心理社会的ストレスが強い場合,不安,抑うつ,怒り,焦燥などの精神症状が現れ,物事をネガティブに捉えやすい状態に陥ると考えられる。本研究では,痛みを伴う患者の社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向ける必要性を明らかにするため,痛みに対する破局的思考と心理社会的ストレスの関連を調査した。
【方法】調査期間は,平成 26 年 4 月 1 日から同年 10 月 31 日とした。対象は,整形外科疾患を有する者 51 名(男性:11 名,女性:40 名,平均年齢 62.4±13.7 歳)とした。疾患部位の内訳は上肢疾患 33 名,下肢疾患 16 名,体幹疾患 2 名であった。中枢性疾患及び明らかな認知症を有する者は除外した。調査は,アンケートを用い,自己記入質問紙法にて行った。調査内容は,PainCatastrophizing Scale(以下,PCS : 13 項目),tress Check List for Self(以下,SCLS : 30 項目),安静時および運動時の Numeric Rating Scale(以下,NRS)の 4 項目とした。PCS は,痛みに対する破局的思考を測る尺度であり,13 項目から更に,反芻,無力感,拡大視の 3 つの下位尺度に分類される。PCS は,Sullivan らによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した。PCS は合計点と反芻,無力感,拡大視それぞれの点数を算出した。SCLS は,30 項目からその時点で本人が感じているものを選び,その得点でストレスの度合いを判定するものであり,値が大きい程,心理社会的ストレスを感じていることを示す。運動時 NRS は日常生活上の特に痛みの出る動作の痛みとした。統計処理には,Spearman の順位相関係数を用いて分析した。PCS と SCLS,安静時及び運動時 NRS の相関関係と SCLS と PCS,反芻,無力感,拡大視,安静時及び運動時 NRSの相関関係を分析した。全ての統計学的検定は両側検定とし,有意水準は 5% 未満とした。
【結果】PCS と安静時 NRS に正の相関関係が認められた(rs=0.287,p<0.05)。PCS と運動時 NRS に正の相関関係が認められた(rs=0.352,p<0.05)。PCS と SCLS に有意な相関関係は認められなかった(rs=0.178,p=0.212)。SCLS と拡大視に正の相関関係が認められた(rs=0.443,p<0.01)。SCLS と安静時 NRS に有意な相関関係は認められなかった(rs=0.271,p=0.055)。
SCLS と運動時 NRS と有意な相関関係は認められなかった(rs=0.115,p=0.420)。
【考察】本研究結果から,安静時及び運動時の主観的な痛みが強い程,痛みに対する破局的思考が強くなる傾向が示唆された。
PCS と SCLS の間に相関関係は認められなかったことより,心理社会的ストレスの程度は,痛みに対する破局的思考に影響しないことが分かった。しかし,PCS を下位尺度で分類した際,SCLS と拡大視に正の相関関係が認められたことから,心理社会的ストレスの程度によって,痛みの強さやそれによって将来起こりうる障害を合理的に予想されるよりも大きなものとして見積もる傾向があると考えられた。SCLS と主観的な痛みの程度に相関関係が認められなかったことから,痛み自体は心理社会的ストレスになっていないことが考えられた。本研究は,各因子の関係性が示唆されたのみであり,破局的思考が痛みを強めるのか,痛みが破局的思考を強めるのかは明確ではない。また,心理社会的ストレスが痛みに対する拡大視を強めるのか,痛みに対する拡大視が心理社会的ストレスを強めるのかも定かではない。しかし,心理社会的ストレスが痛みの難治化を引き起こす一因子として考慮しなければならない可能性を示唆するものとなった。
理学療法学研究としての意義】痛みを有する者に対して,痛みに関連した機能障害,心理的因子の評価を行うだけでなく,社会的背景を含んだ,心理社会的ストレスの評価を行うことで,痛みに対して現実よりも大きく見積もる心理状態に陥りやすいことが分かった。痛みに対する拡大視の強い者の背景に付随する社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向けていく必要性を示すことができた。

 

NRSは、簡便性から使用しやすい疼痛評価ですが、単に痛みの程度の指標ではなく、そこから慢性疼痛への移行予測や心理的な要因をかいまみることができるツール。

きちんとそうした部分の評価を行うこともたいせつですが、目の前の患者さんの状態や様子と、訴えるNRSの解離がありそうと思ったときは、なにか背景に心理社会的ストレスが潜んでいるかもしれないという風に判断することが大切になるのだと思います。

この報告は、論文化されていないようですが、もったいないなーと思う抄録だったので取り上げてみました。