都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

アレルギー性鼻炎に関する診断精度

Review
 
2004 Feb 17;140(4):278-89.
 doi: 10.7326/0003-4819-140-4-200402170-00010.

Evidence-based diagnostic strategies for evaluating suspected allergic rhinitis

 
アレルギー性鼻炎は一般的な鼻疾患の1つで、アメリカでも有病率は10-25%とされる。
アレルギー性鼻炎における詳細な検査を行う必要があるか?
経験に基づく治療薬の決定でいいか?
などを決めるには、最初の診察が重要となる。
 
不必要な検査や薬を減らすために、科学的な診断精度を導く必要がある。
そのアレルギー性鼻炎の診断精度(陽性尤度比;LR+、陰性尤度比;LR-)
特に高い精度を示したものを太字で
    LR+ LR-
誘因 花粉や動物でアレルギー性鼻炎症状 6.7 0.15
ネコで症状増悪 5.1 0.44
花粉や動物でアレルギー性結膜炎症状 4.4 0.09
動物で発症 4.2 0.34
ネコやイヌが誘因や増悪因子 4.2 0.81
雑草により増悪 6.5 0.65
木により増悪 4.9 0.52
草にて増悪 4 0.4
花粉で誘発 2.5 0.49
カビで増悪 2.1 0.73
ハウスダストや花粉で鼻症状が誘発や増悪 3.3 0.39
ほこりで誘発 1.2-1.8 0.49-0.65
家を掃除すると誘発 2.3 0.73
既往 花粉症 4.8 0.58
アレルギー性鼻炎と診断されている 1.9-2.6 0.13-0.80
喘息・蕁麻疹・アレルギー性鼻炎のいずれかの既往 2.1 0.76
家族歴 家族が喘息・蕁麻疹・アレルギー性鼻炎のいずれかを既往 3.4 0.7
季節性 夏に増悪 3.3 0.52
鼻炎症状が季節性 1.7 0.7
季節性で増悪 1.6 0.59
過去1年間を通じて症状あり 1.4 0.78
眼症状 痒くて涙目を伴う鼻症状 1.3-2.5 0.50-0.51
アレルギー性結膜炎と診断 1.4 0.07
呼吸器症状とは別に眼がかゆい 1.1 0.86
鼻症状 前年1年間で風邪ではないくしゃみ・鼻汁・鼻閉あり 1.3-1.4 0.14-0.65
症状が日によって変化する 1.1 0.89

 

特に誘因と既往・家族歴を重点的に質問することと、アレルギー性結膜炎との鑑別が重要。

日本における閉塞性血栓血管炎の疫学

2020 Sep 25;84(10):1786-1796.
 doi: 10.1253/circj.CJ-19-1165. Epub 2020 Sep 1.

Current Trends in Epidemiology and Clinical Features of Thromboangiitis Obliterans in Japan - A Nationwide Survey Using the Medical Support System Database

 
閉塞性血栓血管炎(TAO)はバージャー病;ビュルガー病として知られる原因不明の比較的まれな疾患(稀少疾患難病指定)です。
中型もしくは小型の血管に炎症が起こり、手足の遠位部に虚血が起こるものです。
このTAOの疫学は不明な点が多く、今回は日本での疫学調査を実施したもの。
 
現在の診断基準や鑑別疾患、重症度分類は以下の通り

表1. バージャー病の診断基準

  1. 50歳未満の発症
  2. 喫煙歴を有する
  3. 膝窩動脈以下の閉塞がある
  4. 動脈閉塞がある、または遊走性静脈炎の既往がある
  5. 高血圧症、高脂血症、糖尿病を合併しない

以上の5項目を満たし、膠原病の検査所見が陰性の場合、バージャー病と診断できるが、女性例、非喫煙例では鑑別診断を厳密に行う。


表2. 鑑別診断

  1. 閉塞性動脈硬化
  2. 外傷性動脈血栓症
  3. 膝窩動脈捕捉症候群
  4. 膝窩動脈外膜嚢腫
  5. 全身性エリテマトーデス
  6. 強皮症
  7. 血管ベーチェット病
  8. 胸郭出口症候群
  9. 心房細動

重症度分類

バージャー病の重症度分類
3度以上を医療費助成の対象とする。

1度

患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化(蒼白、虚血性紅潮など)を呈する患者であるが、禁煙も含む日常のケア、または薬物療法などで社会生活・日常生活に支障のないもの。

2度

上記の症状と同時に間欠性跛行(主として足底筋群、足部、下腿筋)を有する患者で、薬物療法などにより、社会生活・日常生活上の障害が許容範囲内にあるもの。

3度

指趾の色調変化(蒼白、チアノーゼ)と限局性の小潰瘍や壊死または3度以上の間欠性跛行を伴う患者。通常の保存的療法のみでは、社会生活に許容範囲を超える支障があり、外科療法の相対的適応となる。

4度

指趾の潰瘍形成により疼痛(安静時疼痛)が強く、社会生活・日常生活に著しく支障を来す。薬物療法は相対的適応となる。したがって入院加療を要することもある。

5度

激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの。(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など)

 
この調査では、TAOの推定有病率は、2000年以降減少傾向を示している。
表2.日本の全人口およびPAOD患者におけるTAOの推定有病率
会計年度*
受信者の総数
人口、
×10 

TAOの推定有病率、
/ 10 5(95%CI)

PAOD人口全体におけるTAOの推定有病率、§
%(95%CI)
2000年 10,089 1,269.26 7.95(7.79–8.10)  
2001年 10,051 1,273.16 7.89(7.74–8.05)  
2002年 9,758 1,274.86 7.65(7.50–7.81)  
2003年 9,085 1,274.69 7.13(6.98–7.27)  
2004年 8,642 1,277.87 6.76(6.62–6.91)  
2005年 8,371 1,277.68 6.55(6.41〜6.69)  
2006年 8,121 1,279.01 6.35(6.21〜6.49)  
2007年 7,950 1,280.03 6.21(6.07–6.35)  
2008年 7,789 1,280.84 6.08(5.95–6.22) 7,789 / 108,900、7.15%(7.00–7.31)
2009年 7,591 1,280.32 5.93(5.80–6.06)  
2010年 7,147 1,280.57 5.58(5.45–5.71)  
2011 7,282 1,278.34 5.70(5.57–5.83) 7,282 / 111,300、6.54%(6.40–6.69)
2012年 7,109 1,275.93 5.57(5.44–5.70)  
2013年 6,979 1,274.14 5.48(5.35–5.61)  
2014年 7,043 1,272.37 5.54(5.41〜5.66) 7,043 / 115,1000、6.12%(5.98–6.26)
年齢や性差は、男性に多く、35-54歳に多い
症状;
片側のこともあれば、両側性のこともある。
上下肢に症状が出現する例も少ないけどいる。
表4.初回訪問時の兆候と症状
変数 全体
(n = 88)
登録時の年齢 喫煙歴 セックス
<50歳
(n = 53)
50年以上
(n = 35)
P値 現在の
喫煙者
(n = 82)

喫煙しない
(n = 6)
P値 男性
(n = 76)
女性
(n = 12)
P値
指の冷たさ、しびれ、
またはレイノー現象
83(94) 49(92) 34(97) 0.65 77(94) 6(100) > 0.99 71(93) 12(100) > 0.99
間欠性跛行 39(44) 23(43) 16(45) 0.51 38(46) 1(17) 0.10 34(45) 5(42) > 0.99
指の残りの痛み 67(76) 40(75) 27(77) > 0.99 64(78) 3(50) 0.15 56(74) 11(92) 0.28
指潰瘍 40(45) 22(42) 18(51) 0.39 38(46) 2(33) 0.58 32(42) 8(67) 0.13
壊疽 22(25) 9(17) 13(37) 0.045 21(26) 1(17) > 0.99 17(22) 5(42) 0.17
静脈炎 6(7) 2(4) 4(11) 0.22 6(7) 0 > 0.99 5(7) 1(8) > 0.99

データは患者数(列のパーセンテージ)として表されます。

 
動脈病変は、上肢54%・下肢69%と下肢に多く出現する傾向。
脛骨動脈(58%)>前腕動脈(56%)>膝窩動脈(16%)の順で閉塞する順が多かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

膝の水を調べるのは、身体所見と画像所見のどちらが優れているか?

Review
 
2021 Mar 5.
 doi: 10.1002/jum.15676. Online ahead of print.

Diagnostic Utility of Ultrasound Versus Physical Examination in Assessing Knee Effusions: A Systematic Review and Meta-analysis

 
膝の水(浸出液)の評価で最も優れて方法は?
最終的に25編が厳選され、メタ解析を行った。
身体所見;ブルジサイン・パテラタップ
超音波検査
で精度を比較
 
Diagnostic Utility of Ultrasound Versus Physical Examination in Assessing  Knee Effusions - Meyer - - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online  Library
 
その結果、
超音波vsMRIでは、
Diagnostic Utility of Ultrasound Versus Physical Examination in Assessing  Knee Effusions - Meyer - - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online  Library
 
身体所見vsMRIでは、
ブルジサイン;
Dr Margaret Macky Dr Steve Kara
パテラタップ;
Examination of knee psmc
 
 
Diagnostic Utility of Ultrasound Versus Physical Examination in Assessing  Knee Effusions - Meyer - - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online  Library
 
身体所見vs超音波
Diagnostic Utility of Ultrasound Versus Physical Examination in Assessing  Knee Effusions - Meyer - - Journal of Ultrasound in Medicine - Wiley Online  Library
 
総合的にみると超音波が優れていそう。
また身体所見は、陰性でも単独では否定できない。

レイノー現象を起こす原発性と続発性の違い

Review
 
2010 May;58:309-13.

Raynaud's phenomenon

 
レイノー現象には、原因疾患のない一次性(原発性)と原因疾患がある二次性(続発性)がある。
原発レイノー現象は、レイノー病とも呼ばれ、40歳代以上の若い女性が全体の1/4を占める。
また家族歴も同程度。
 
続発性レイノー現象を起こす主な疾患は、
膠原病(MCTD・強皮症・SLE・関節リウマチ・皮膚筋炎・多発性筋炎・シェーグレン症候群などで、特にMCTDと強皮症との関連が強いとされる)
薬剤(エルゴタミン・β遮断薬・ニコチン・インターフェロンなど)
職業性(振動機械を使う仕事)
動脈系疾患(閉塞性血管炎・血栓や塞栓・動脈硬化胸郭出口症候群・血管炎など)
その他(甲状腺機能低下症・悪性腫瘍・POEMS症候群など)
 
原発性と続発性の主な違い;
原発性:
寒冷刺激やストレスに対する反応
膠原病は否定
Nail fold capillaries(爪床毛細血管は異常なし
対称性の軽度~中等度の痛み
指の壊死や潰瘍は認めない
発症年齢14歳以上、約27%は40歳以上
レイノー現象の家族歴あり
 
続発性:
膠原病などの基礎疾患がある
膠原病を疑う筋肉痛や関節痛、皮膚硬化、皮疹がある
Nail fold capillariesは異常あり
非対称性の強い痛み
指の潰瘍や壊死がある
発症年齢が30歳以上
この他にもチェーンソーや削岩機を使用することが多い。
症状が全指なら原発性の可能性、数本なら続発性の可能性あり。
 
 
Nail fold capillaries;
下の赤丸部分にキシロカインゼリーをつけて、皮膚鏡(Dermatoscopy)で観察する。
 
 

膝の痛み;4ルール

2020 Jan 30;4(2):11765.

The Rules of Four: A Systematic Approach to Diagnosing Common Musculoskeletal Conditions of the Knee

 
筋骨格系症状として、膝の痛みを訴える方は多い。
しかし、新卒の医師において、膝の痛みを正確に診る自信がないと答えたのは78-82%という報告がある。
 
そこで、体系的に膝の診かたをまとめた「rules of four」を紹介する。
 
まずは、
膝を、内側・正中・外側と靭帯の4つに分割し、それぞれ4つの観察ポイントを探す。
 
内側;
A:内側側副靭帯(MCL)の損傷~圧痛・外反ストレステスト
B:内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)の損傷~膝蓋が内側に脱臼したり、不安定になるとこの部位に圧痛がある。また足首が外反していると膝への負担から圧痛がでることがあり、肥大した滑膜やプリカ(滑膜ヒダ:滑膜タナ)があることもある。
C:内側関節裂隙~この部位の圧痛は大きく2つの意味がある。変形性関節症と内側半月板断裂。膝マクマレーテストが有用。
D:鷲足炎
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Object name is smrj_2020_4_2_11765_28668.jpg
正中;
大腿四頭筋腱断裂、大腿四頭筋腱炎、膝蓋骨骨折、膝蓋前滑液包炎、膝蓋大腿痛症候群、膝蓋大腿腱炎、シンディング・ラーセン・ヨハンソン症候群、オスグッド・シュラッター病。
 
A;大腿四頭筋腱炎、断裂の圧痛⇒膝の伸展が完全にできるかを確認
B;この部位の圧痛は、膝蓋骨骨折や膝蓋前滑液包炎の可能性
C;膝の伸展位で行う。この部位の圧痛は運動選手で多く、ジャンパー膝(膝蓋骨腱炎)や膝蓋骨アポフィジス炎(シンディング・ラーセン・ヨハンソン症候群)の可能性あり。
内・外膝眼穴あたりも圧痛の有無を確認する
D;脛骨粗面。この部位の圧痛は、剥離骨折やオスグット・シュラッター病の可能性あり。どちらも青年期の運動選手に多い。
 
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外側;腸脛靭帯症候群(ITバンド症候群)、膝蓋骨の不安定性、外側半月板損傷、変形性関節症、近位腓骨骨折(すなわち、メゾヌーブ骨折)、および近位腸脛靭帯脱臼。最近の重大な膝の外傷の病歴も、外側脛骨プラトー骨折を示唆している可能性がありますが、内側関節線の痛みと同様に、これは外側膝の痛みの一般的な原因ではありません。
 
A;こお部位の圧痛はITバンド症候群を疑う、自転車やランナーに多い。疑いがある場合はノーブル検査を行う。
B;膝の不安定。
C;想定される主な疾患は、外側半月板損傷と変形性関節症。
膝を90度の屈曲して、外側関節裂隙を確認する。この部位に圧痛があると疑う。
D;腓骨骨折や脱臼の疑い
 
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靭帯;前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、および外側側副靭帯(LCL
 
両側で確認すること。
ACL;ラックマンテストを推奨(その他のテストは精度が低い)
PCL;後方引き出しテスト
MCL;外反ストレステスト
LCL;内反ストレステスト
 
写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名はsmrj_2020_4_2_11765_28835.jpgです。
 
 

突発性難聴の予後

まずは、突発性難聴の発症数から、

2007 Dec;127(12):1259-65.
 doi: 10.1080/00016480701242410.

Thirty-year trends in sudden deafness from four nationwide epidemiological surveys in Japan

日本の疫学調査をまとめたもので、
発症数は増加傾向を示し、年齢のピークが高齢に向かっている。

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突発性難聴の予後;
大まかに3タイプあり、回復する例・部分的な回復例・不変例となる。
このどれになるかは、判断が難しいが、参考となる予後データがいくつかある。
 
発症時(初診時)の聴力が悪ければ悪いほど回復しにくい;Audiol Jpn.2000;43:98-103.
 
治療開始が、発症から4週間経過した例は回復しにくい;Audiol Jpn.2004;47:101-8.
 
低音障害型は高音障害型より治りやすい
めまいがない例は、ある例より治りやすい⇒めまいがあると聴力も悪くなることが多いので、めまい単独での予後判定の意味は小さい
;Laryngoscope.1993;103:1145-9.
 
予後不良因子は、40歳以上・治療開始が発症から8日以上・初診時聴力レベルが60db未満、もしくは80db以上・高低音差が0以上・めまいの有無と予後は関係なし;Audiology Japan 43, 89~92, 2000
 
高齢者は予後はやや悪い
 
耳鳴りは予後と関係しない;Audiol Jpn.1999;42:710-6.
その一方で、耳鳴りがない方が、ある方と比べて予後が悪い
 
などが報告されているよう。
 
 
 

コレステロール塞栓症によるBlue-toe症候群

Review
 
2010 May 8;375(9726):1650-60.
 doi: 10.1016/S0140-6736(09)62073-0. Epub 2010 Apr 8.

Atheroembolic renal disease

 
動脈硬化によるプラークが腎動脈に詰まるアテローム塞栓性腎疾患がある。
その際に、プラークが皮膚症状や胃腸症状、中枢神経系などに影響を及ぼすことがある。
これらは自然発生のこともあるが、カテーテル治療や血管治療、抗凝固剤使用により起こることもある。
これが足趾に起こるとBlue-toe症候群となる。
Atheroembolic renal disease - The Lancet
上写真のA-GがBlue-toe症候群
 
こうしたコレステロール塞栓症による各症状の起こる割合(複数の文献をまとめたもの)は、
皮膚症状;35-90%
胃腸症状:10-33%
中枢神経系:4-23%
眼症状:6-25%
好酸球増加症:22-73%
であった。
 
Blue-toe症候群では、チアノーゼや疼痛、網状皮斑(リベド)、壊疽や潰瘍などが起きうる。
多くは足背動脈などの触知可能。
予後は切断となるケースや再発例などもある。