頭痛と心疾患

森敏純、他．激しい頭痛で発症した急性心筋梗塞の1例．J Cardiol Jpn Ed 2010; 5: 49 – 52.

症例は60代の男性が、くも膜下出血を疑わせる激しい頭痛(後頭部痛)だったが、心筋梗塞だったというもの。

国際頭痛分類第2版では、「心臓性頭痛」の診断基準が記載

A；頭痛は重度で運動によって増悪し，悪心を伴い，かつ C と D を満たす頭痛
B； 急性の心筋虚血を起こした
C ；頭痛は急性心筋虚血と同時に起こる
D ；急性虚血に対する有効な薬物治療ないし冠動脈の血行再建により頭痛は消失し，かつ再発しない

心臓性頭痛では、労作による発症ないし増悪が1つのポイントで、この場合は循環器疾患を想起する必要がある。

しかし、急性心筋梗塞では、安静時に起こり得るため、循環器疾患を想起するのは難しいかもしれない(緊急性は高いと判断されるが、循環器疾患よりもくも膜下出血などの可能性の方が高いと考えやすい)。

表 2　急性心筋梗塞に伴い頭痛を呈した症例.；
文献　年・性　頭痛部位　頭痛の性状　頭痛以外の症状　責任病変　頭部CT　腰椎穿刺 診断の根拠　転帰
Dalzell et al. 49 女 後頭部 severe × 右冠動脈 ○ × 12 誘導心電図 生存
Broner et al. 72 女 後頭部 sharp, throbbing × 右冠動脈 ○ × 12 誘導心電図 生存
Seow et al. 35 男 ? severe explosive × 左前下行枝 ○ ○ 12 誘導心電図 生存
Famularo et al. 70 男 前頭部～頭頂部 severe, sharp, shooting × 右冠動脈 × × 12 誘導心電図 生存
Korantzopoulos et al. 73 女 後頭部 intense sharp × 左前下行枝 ○ ○ 12 誘導心電図 生存
Auer et al. 47 男 後頭部 ? × 左回旋枝 × × 剖検 死亡
Amendo et al. 47 女 側頭部 severe × 3 枝病変 ○ ○ 12 誘導心電図 生存
Presented case. 69 男 後頭部 severe, throbbing軽度の胸部違和感 右冠動脈 ○ × モニター心電図 生存

過去の報告をまとめてみると、

年齢は、50歳以下が多い。

性別は半々

頭痛部位は後頭部が多いが、そのほかもある。

頭痛以外の症状がないことが多い

性状は、様々で鋭い痛みや拍動性などがある。

頻度は非常にまれだと思われるが、頭痛の原因に心疾患があることは覚えておくとよい。

また心疾患で頭痛が起こる機序はよく分かっていないが、

関連痛によるもの

虚血⇒心拍出量減少⇒脳血流低下もしくは静脈還流量減少による脳圧亢進

心筋梗塞⇒内因性化学物質(セロトニンやサブスタンスPなど)の放出⇒脳血管の痛覚線維に影響

などが示唆されているよう。

頭痛患者さんすべてに心電図を行うのは現実的ではないが、疑わしければ行う。

鍼灸院にはおそらく心筋梗塞による頭痛で来院はないと思うが、狭心症での頭痛ならば来院はあり得る。

その場合、頭痛の持続時間(30-60分以上続くならば急性冠動脈症候群、5分以内ならば安定狭心症など)や安静時？or労作時？なども重要な情報となるかもしれません。