腹部大動脈瘤について
本日は、腹部大動脈瘤について。
先日、当院に全身のマッサージ希望の50代男性が来院。
既往歴は、20年来の糖尿病と関節リウマチ。
来院時の血圧は120/75mmHgだが、140になることも多いとのこと。
マッサージはリラクゼーション目的とのことで、体の不調は特にはないと言われる。
既往歴はあるが、それにしても特に不調はないとのことで、特にred flagは考えていませんでしたが、腹部をマッサージしようと触診したところ、3cm~3.5cm程度の血管拍動を感じてびっくり。
排尿障害や足の冷えなどを質問すると、軽度の冷えがあるとのこと。糖尿病によるもの?もしかして腹部大動脈瘤(AAA)の可能性もあり?
完全に油断していました。反省も込めて、本日はAAAに関する報告をいくつか。
腹部大動脈瘤の正常な大きさは、1.5~2.0cm。
日本人の正常な大きさは、1.93±0.26cmとされている
正常の1.5倍ないしは3cm以上で腹部大動脈瘤と定義される。
発生部位は、腎動脈分岐部以下が多い(約6割)。
発生頻度は?;Arch Intern Med. 2000 May 22;160(10):1425-30.
腹部大動脈瘤の大きさと破裂のリスク;
J Vasc Surg. 2003; 37: 1106-17.
腹部大動脈瘤の大きさ:破裂リスク(%/年)
<4cm:0%
4-5cm:0.5-5%
5-6cm:3-15%
6-7cm:10-20%
7-8cm:20-40%
>8cm:30-50%
AAAの形状;
Ann Surg. 2019 Nov;270(5):852-858. より
嚢状と紡錘状に大別される。
嚢状をSaAAA、紡錘状はFuAAAと略す。
形状別頻度;AAA患者7659名を対象に、
SaAAAが6.1%
FuAAA93.9%
急性のSaAAAは女性に多く、25.2%が直径5.5cm以下
急性FuAAAでは5.5cm以下は8.1%。
AAAの自然歴;Intern Med. 1992 Sep;31(9):1088-93.より
自然歴における累積生存率は、
1年:84%
3年:50%
5年:22%
胸部大動脈瘤よりも予後は不良だった。
部位による瘤径差で破裂頻度には差がなく、破裂時の死亡率は50%。
Arch Intern Med. 2000 May 22;160(10):1425-30.では、
4cm以上のリスクファクターとして、
加齢(7歳ごと):OR1.7
AAAの家族歴:OR1.9
喫煙:OR5.1
高コレステロール:OR1.4
動脈硬化性疾患:OR1.7
冠動脈疾患:OR1.5
はリスクが上がる。
深部静脈血栓症:OR0.7
糖尿病:OR0.5
女性:OR0.2
はリスクが下がる。
症状は?;
多くは無症状だが、腰痛や下腹部痛
腸管圧迫による下痢・便秘・嘔気
尿管圧迫による頻尿や排尿困難、血尿、水腎症
大腿神経の圧迫による大腿前面から膝関節へのしびれ
下肢血管閉塞による間欠性跛行、下肢虚血症状、Blue-toe
AAAの触診の精度は?;
The rational clinical examination. Does this patient have abdominal aortic aneurysm? .