風邪とインフルエンザには漢方薬も使えます
本日は、漢方薬についてです。
漢方薬は使い勝手もいいので、幅広く処方されていますが、今回は風邪とインフルエンザについての論文です。
内藤俊夫.感冒・インフルエンザと漢方.順天堂医学.2012;58:397-402.
感冒(かぜ症候群)とインフルエンザの特徴;
インフルエンザは急激な発症で全身的症状を起こします。
感冒の中から、インフルエンザを見つけ出し、適切な治療が必要。
古典の東洋医学の本にある「傷寒論」には、麻黄湯と葛根湯の適応がイラスト
麻黄湯の適応イラストは、頭痛・高熱・全身の関節痛があり、インフルエンザとされ、
葛根湯の適応イラストは、悪寒・微熱を中心とした風邪が疑われるとされています。
つまり、傷寒論が書かれた3世紀初め(1800年前ごろ)には、風邪とインフルエンザを鑑別し、処方する漢方薬を変えていたということになります。
これまでに、インフルエンザが原因の世界的大流行(パンデミック)を3回経験しています。
スペイン風邪(1918年);4000万人以上の死者
アジア風邪(1957年)
香港風邪(1968年)
豚インフルエンザ(2009年);A型インフルエンザH1N1⇒豚インフルエンザ
インフルエンザの主な種類;
死亡率がどれくらいか?も重要なことですが、同時に感染力も重要です。
感染力を示すBasic reproduction number;R₀という指標があり、
1人の感染者が何人に感染させるか?を数値化したもので、数字が低いほど感染力は弱いとなります。
豚新型インフルエンザのR₀=1.2-1.8
季節性インフルエンザのR₀=1.2-1.4
スペイン風邪のR₀=2-3
インフルエンザ以外の感染
HIVのR₀=2-5
麻疹のR₀=9-16
百日咳のR₀=10-18
とされますが、
季節性インフルエンザでも、狭い空間などでは、この数値は変わります。
学校などの環境だけでみると、おそらくR₀=2-3になるのではないでしょうか?
インフルエンザワクチン;
インフルエンザワクチンは、基本的に使用してはいけない慢性疾患はない。
また併用してはいけない内服薬もない。
85万人にインフルエンザワクチンを接種した副作用(アナフィラキシー・肝機能障害)は、0.0003%という頻度。
季節性インフルエンザワクチンのメタアナリシスでは、リスク減少(接種しておけばインフルエンザに罹患しなかった人の割合)は、59%だったとされている(Lancet Inf Dis.2012;12:36-44.)。
抗ウイルス薬;
日本では、タミフル®が使用されることが多いですが、子供の異常行動などが報告されるようになりました。リレンザ®や今年はゾフルーザといった薬が使われることもあります。
タミフル®の効果を検証したコクラン共同計画は、インフルエンザによる発熱を21時間早く軽快させると発表しています(Cochrane Datebase Syst Rev.2012;1:CD008965.)。しかし、合併症や入院を減らす効果はないとしています。また別の報告では、風邪などに使われる解熱剤とタミフル®の効果に大差はないという報告もある。
抗ウイルス薬は、発症から48時間以内に内服しないと効果はない(ゾフルーザは調べてないので、同じかは不明)。
漢方治療;
漢方薬の中で、麻黄湯・柴胡桂枝湯・竹茹温胆湯の3つはインフルエンザに対する保険適応となっている。
3つの使い分けは、
急性期なら麻黄湯(マオウトウ)
亜急性期なら柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
亜急性期~回復期なら竹茹温胆湯(チクジョウオンタントウ)
とされている。
また、罹患後の倦怠感などには、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が適応。
漢方薬の研究データは、多くはないが、その中でRCTの研究も少ないけどある。
その結果では、
1.麻黄湯の解熱効果は、抗インフルエンザ薬と同等
2.麻黄湯は、頭痛・筋肉痛・咳・倦怠感に対して、タミフル®やザナミビルと同等
3.関節痛に対しては麻黄湯の方が優れている
という結果がある(Health.2011;5:300-303.)。
その他、サイトカインストームと呼ばれる通常の状態よりも過剰なサイトカインの産生がウイルス性肺炎などに関与する。
漢方薬はそのサイトカインストームの流れを止める効果が期待されている。
さらなる検証は必要ですが、使い方次第では、漢方薬はインフルエンザにも有用です。