都城鍼灸ジャーナル

宮崎県都城市で鍼灸師をしている岩元英輔(はりきゅうマッサージReLife)です。読んだ論文を記録するためのブログです。当院のホームページ https://www.relife2019.jp/index.html しんきゅうコンパス https://www.shinq-compass.jp/salon/detail/33749

不妊症に対する鍼の効果(中国の文献のメタ解析)

本日は、不妊女性に対する鍼治療の効果についての報告です。

 

これまでに、ブログ内でも不妊を取り扱っています。

出生率に対する鍼治療の効果」

https://blog.hatena.ne.jp/ararepyon/ararepyon.hatenablog.com/edit?entry=17680117127170773927

「コクランレビューによる多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼治療」

https://blog.hatena.ne.jp/ararepyon/ararepyon.hatenablog.com/edit?entry=26006613377249296

など

 

今回は、生殖補助技術(ART)を受けていない女性の妊娠率が鍼で向上するか?のメタ解析です。

 

Yun L, et al. Acupuncture for infertile women without undergouing assisted reproductive techniques (ART): A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2019 Jul; 98(29): e16463.

ARTを受けていない不妊女性に対する鍼治療:系統的レビューとメタアナリシス

 

不妊症患者は、約12-15%いるとされている。

不妊原因は、男性と女性で半々あるが、女性の方が社会的負担が大きい。

女性側の不妊原因として、

排卵障害・子宮内膜症・骨盤癒着・卵管閉塞およびその他の卵管異常、

高プロラクチン血症、先天性ないしは後天性(筋腫など)の子宮異常などが挙げられる。

 

不妊治療薬として、

クエン酸クロミフェン、閉経期ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体、アロマターゼ阻害薬などがあるが、これらは将来のがん(卵巣がん乳がん)のリスクになることが報告されている(Curr Opin Obstet Gynecol. 2014;26:125-9., 2010 Sep;1205:214-9.)

また、40歳以上の女性に対する有効性は不明

 

ARTの使用による成功率は、1サイクルあたり約30%で、患者の心理的・身体的・経済的負担は大きい。

体外受精(IVF)を行っている女性に対する鍼治療の妊娠率は報告があるが、ARTを行っていない女性でのメタ解析は不足している。

 

4746編をデーターベースからみつけ、最終的に22編が残った(n=2591)。

22編はすべて、中国での報告で、1編は英語、21編は中国語。

12編は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連する不妊

4編は膣・子宮形成不全を伴う不妊

卵管閉塞が1編、黄体機能不全が1編、高プロラクチン血症が2編、黄体化未破裂卵胞症候群が1編、あらゆる不妊症が1編だった。

f:id:ararepyon:20191117143159p:plain

 

バイアスリスク

RCTの方法が記載されていない、ブラインドの有無が記載がないといったものがあった。

f:id:ararepyon:20191117143233p:plain

 

結果

1.妊娠率~20編(n=1644)

介入群(n=827)、対照群(n=817)

異質性:中等度の異質性があった

RR=1.84[1.62-2.10]、p<0.00001

統計的に鍼治療に有意な妊娠率の増加が認められた。

f:id:ararepyon:20191117143249p:plain

鍼治療の方法ごとのサブグループ解析

西洋医学に基づいた鍼治療(5編)

RR=1.86[1.36-2.54]、P=0.0001

西洋医学に基づく伝統医学と組み合わせた鍼治療(4編)

RR=1.52[1.25-1.86]、P<0.0001

鍼+西洋医学(3編)~図ではacupuncture aloneとなっているが、本文では西洋医学と鍼の介入となっている。

RR=2.63[1.60-4.32]、P=0.0001

中国医学+鍼(8編)

RR=1.99[1.60-2.46]、P<0.00001

 

不妊症のタイプ別の妊娠率

PCOS(11編)~RR=1.70[1.47-1.97]、P<0.00001

排卵障害(4編)~RR=2.65[1.72-4.09]、P<0.0001

他の要因(5編)~RR=2.06[1.46-2.91]、p<0.0001

いずれも鍼介入で妊娠率が増加している。

f:id:ararepyon:20191117143314p:plain

 

2.排卵率(15編;n=1702)

 介入群839人、対照群863人

異質性:中等度の異質性

RR=1.29[1.21-1.37]、P<0.00001

鍼介入群に有意な増加が認められた。

f:id:ararepyon:20191117143328p:plain

10件のRCTは、排卵したサンプルを合計サンプルで割った排卵率で比較。

RR=1.31[1.19-1.45]、P<0.00001

5件のRCTでは、排卵周期を総周期で割った排卵率で比較。

RR=1.27[1.17-1.38]、P<0.00001

 

3.黄体形成ホルモン(LH):8編(n=786)

異質性:統計的な異質性あり

MD=1.93[2.43-1.44]、P<0.00001

鍼治療でLHの有意な改善

f:id:ararepyon:20191117143347p:plain

 

4.卵胞刺激ホルモン(FSH):7編(n=726)

異質性あり。

MD=0.20[0.42-0.82]、P=0.52

有意差はなし

f:id:ararepyon:20191117143403p:plain



5.子宮内膜の厚さ:9編(n=786)

異質性あり

MD=1.39[0.51-2.27]、P=0.002

鍼治療で子宮内膜の厚さのレベルが有意な改善

f:id:ararepyon:20191117143418p:plain

 

7.有害事象

6件に研究で、中絶などの有害事象

5件で、下痢・腹痛・嘔気・嘔吐・頭痛・熱感?などが報告

5件の研究では、有害事象なし。

対照群と鍼群で有害事象に差はない(統計的な差ではなく、件数として)。

f:id:ararepyon:20191117143457p:plain

 

研究の限界

中国国内の報告に限定されたものであること。

バイアスリスクが不明確なものがあること。

sham鍼との比較がないこと。

が挙げられています。

 

今回の報告は、1つの参考にはなるかと思いますが、

これだけで、鍼が不妊に有効とはならないと思います。

機序に関する研究がまだまだ不十分。

また、中国との違いもいくつかあるかと思います(治療法など)。

さらに少し偏り(バイアス)のあるレビューなので、そこを踏まえたうえで参考とするのがいいかなと思います。